(会報「学校保健」272号 H20年6月発行号より)
障害児の歯科診療の目指すところ障害者の歯科治療は、昭和の早い時期から、ごく一部の熱意を持った歯科医師によって取り組まれていました。昭和40年代以降、地区歯科医師会が取り組みはじめたことによって、各地域に少しずつ拡がり、その中で障害児については、おもに小児歯科が担ってきました。
1981年の国際障害者年を契機に、障害者あるいは障害児専門の診療施設が整備されるようになり、いつでも、どこでも、安心して必要な歯科診療が受けられるようになってきました(写真)。
これは、「すべての障害者が、社会の中で同じように、また普通に生活することができるように、世界中の人々が共に考え行動する」という国際障害者年の主旨に沿った動きでした。
中野区と中野区医師会が運営している障害者歯科診療所 施設が整備される一方で、治療方法については障害の特性に基づいて、行動面と医療面からの体系づけがすすめられてきました。精神発達遅滞児では、「必要な処置をひとつひとつ話して、実際に見てもらって、練習(模擬体験)して、それから実際に行う」といった対応によって、上手に治療を受けられるようになります。自閉症児では、絵や写真をカードにして、全体の行動を理解してもらい、歯科診療室に入るところから、順番に練習をし、それぞれの目標を達成しながら、歯科治療へ結びつけていきます。そこからむし歯を治そうという気持ちも芽生えます。歯科治療への協力がどうしても得られない場合には、全身的な麻酔のもとで、確実にそして安全に治療する方法も確立しています。
また、心臓に先天性の障害があれば、医科との連携をとりながら、あらかじめ抗生剤を服用して細菌への感染を予防するといった配慮をすることで、安全に治療をすすめることができます。
予防についても、障害のより深い理解や子どもの個性を考慮し、個々の障害児にあった健康つくりを提案できるようになっています。染色体の異常が原因で、唾液の分泌が少ないという特徴を持つ障害児では、唾液の分泌が少ないことからむし歯になりやすいことがわかっています。そこで、できるだけ早い時期から、この特性を考慮した予防計画を実践することで、むし歯をつくらずに成長できるよう支援します。また、専門施設とかかりつけ歯科医とが連携して、家庭、保育園や幼稚園、そして学校とも手を携え、障害児の口と歯の健康を地域で守ろうとしています。このような取り組みは、一人一人のニーズに応じてよりよい教育を提供しようという、特別支援教育の主旨にも繋がるものだと考えています。
食べる機能については、障害児の生活支援という視点から、積極的に取り組まれています。学校給食の場はもちろん、安全に美味しく食べるために、口や歯の発育や発達に適した食べ方を知ることは大切なことです。学校や家庭、さらには障害児に関わるさまざまな職種の方たちと連絡を取りながら、一人一人にあった食べ方や介助の方法、調理方法などを考え、実践することが必要です。
生きる基本となる「食べる」「話しをする」機能は、自分の意思で健康を維持できる部分が多くあります。私たちは、これらの機能と深く関わる歯と口の健康支援を通じて、障害のある子どもたちが快適に毎日をすごせるようにと、さまざまな取り組みをすすめています。
(社)中野区歯科医師会 専務理事 田中 英一