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Q&A 二酸化塩素による除菌等をうたった製品の使用について

インフルエンザ等の流行にあわせたかたちで二酸化塩素を利用した商品が一般に出回っている。
しかし二酸化塩素は我が国では消毒薬としては未認可であることから、その使用にあたってはより慎重さが求められると考える。
また、たとえ、二酸化塩素がウイルス等を死滅させる事実があっても、日本においてウイルス感染を予防できる旨を商品の効果・効能として表示するには厚生労働大臣による医薬品としての製造販売承認が必要である。現状としては医薬品として販売されている製品はなく、雑貨として販売されているにもかかわらず不適表示・広告している製品がみられることから、注意が必要と考える。

以下に二酸化塩素について新たにQ&Aを作成したので学校でインフルエンザ、ノロウイルス対策等を検討する上での参考資料としてほしい。

Q:二酸化塩素ガスによる環境消毒の是非について

A:二酸化塩素(ClO)ガスは次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン、ハイター等)の約2.5 倍の酸化作用を有し、芽胞を含むすべての微生物に有効である。しかし、診療所内などの環境消毒に二酸化塩素ガスを使用することは毒性及び効果などの点において勧められない。
なぜなら、本ガスが眼や呼吸器系の粘膜を刺激して、咳嗽や喘息などの原因となる危険性があるからである。また、汚れが付着した環境に対するガス燻蒸法の消毒効果は弱い。さらに、本ガスは金属やプラスチックの劣化作用を示すからである。従来の伝染病予防法ではガス燻蒸や噴霧などの消毒法が推奨されていたが、1999 年施行の感染症法では、これらの消毒法は推奨されていないことに留意したい。

環境消毒は、消毒薬の清拭で行うのが基本である。対象微生物に応じて、次亜塩素酸ナトリウム、アルコール(消毒用エタノール、70%イソプロパノール)又は塩化ベンザルコニウム(オスバン、ザルコニン)などを使い分ける。なお、グルタラール、フタラール、及び過酸化酢酸などの消毒薬は蒸気毒性の観点から環境消毒に用いてはならない。また、ホルマリン燻蒸や紫外線照射なども環境消毒には適さない。

ロタウイルスの主な感染経路は糞便―経口である。従って、ロタウイルスの感染防止には使い捨て手袋の使用や手洗いが重要である。また、手が触れる箇所(ドアノブ、便座、おもちゃ等)の消毒も重要で、対象物に応じて0.1%(1000ppm)次亜塩素酸ナトリウムやアルコールの清拭を使い分ける。例えば、ドアノブや便座の消毒では、次亜塩素酸ナトリウムの金属腐食性や臭気などを考慮して、アルコール清拭を選択する。なお、ロタウイルスやノロウイルスなどはアルコールにやや抵抗性を示すので、アルコール清拭は2 回行うのが望ましい。1回目の清拭の15秒後などに2回目の清拭を行う。

新型インフルエンザウイルスの主な感染経路は飛沫で、接触や空気などによる感染の可能性も推定されている。従って、新型インフルエンザの感染防止にはサージカルマスクの着用が特に重要である。また、可能であれば陰圧に保つことができる部屋を確保しておくことも望ましい。空気の浄化は、窓の開放やHEPAフィルター付きの空調などで対応可能である。
(ただし、呼吸器障害をもつ児童生徒については、N95マスク等の微粒子用マスク等の使用はリスクが高いので望ましくない。)
一方、環境消毒は、手が触れる箇所を中心に0.1%(1000ppm)次亜塩素酸ナトリウムやアルコールの清拭を行う。
なお、二酸化塩素は水道水やプール水(※)などの殺菌に汎用されている。また、英国では二酸化塩素の150~1100 ppm 液が内視鏡消毒などに用いられている。一方、我が国では二酸化塩素は消毒薬としては未認可である。このため、二酸化塩素は「感染症の診断・治療ガイドライン」などには記載されていない。―日本医事新報No.4385(2008.5.10)から抜粋―

(※)二酸化塩素ガスの使用は遊泳用プールでは認められているが、学校プールについては認められていない。

  • 学校プール水の消毒剤としては「学校環境衛生基準」により次亜塩素酸ナトリウム液、次亜塩素酸カルシウム又は塩素化イソシアヌル酸のいずれかである定められている。
  • 遊泳用プール水については「遊泳用プールの衛生基準(厚生労働省)」において、塩素又は塩素剤等の消毒剤の連続注入及びオゾンによるとされ、二酸化塩素を消毒に用いる場合は、プールの敷地内に設置された装置から発生する二酸化塩素を連続注入する方式のものを使用する

水道水については我が国では一次消毒に用いられているのみである。

  • 国が水道水で使用を認めているのは、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、液化塩素の3つです。ただ、二酸化塩素は欧州では使われている塩素剤あり、日本でも今後の使用が検討されています。

Q:二酸化塩素による除菌等をうたった商品について

A:二酸化塩素の安全性は経口摂取では確認されているものの、空気中の二酸化塩素濃度に関する基準は米国産業衛生専門家会議が設定した作業環境に関する基準があるだけで日本国内にはなく、長期間低濃度での暴露に係る安全性の検証に至っては十分なされているとはいえない状態である。また、独立行政法人国民生活センターが据置芳香剤型の空間除菌をうたった商品に対して行った調査では、二酸化塩素を有効成分とうたっているにも関わらず放出が皆無である製品の存在や臭気が原因とみられる体調不良者の発生、自社での有効性・安全性確認がなされていない製品が多くみられる実態があるなど、今後の研究・改善が求められる。
また、冒頭でも述べたがたとえ、二酸化塩素がウイルス等を死滅させる事実があっても、日本においてウイルス感染を予防できる旨を商品の効果・効能として表示するには厚生労働大臣による医薬品としての製造販売承認が必要である。しかし、現状としては医薬品として販売されている製品はなく、雑貨として販売されているにもかかわらず不適表示・広告している製品がみられることから注意が必要です。
さらに、商品の長所・短所の記述の多くは純粋二酸化塩素水溶液またはそのガスに対して適用されるものがほとんどであって、そのまま安定化二酸化塩素に適用することは難しい。さらに、二酸化塩素が食品添加物であること等を根拠に安全であるとうたっているものもあるが、必ずしも商品自体の安全性ではないことに注意が必要である。

Q:学校での二酸化塩素による除菌等をうたった商品の使用について

A:環境消毒と称して、安定化二酸化塩素を使った据置芳香剤型の空間除菌剤や首からぶら下げるタイプの携帯型空間除菌剤等も二酸化塩素ガスの放散をうたっていることには違いがないことから、学校の教室など多数の児童生徒がいる場所での使用は勧められないと考える。ただ、販売形態としてほとんどが雑貨として販売されているため、厚生労働省や消費者庁の見解が出ていない段階で使用禁止を求めることはできない。しかし、前述の通り、医薬品として販売されている製品はなく、雑貨として販売されているにもかかわらず不適表示・広告している製品が多くみられることから、正しい情報提供を行うことで適切な対応をとっていただけるようお願いしたい。

Q:平成25年2月18日の消費者安全法第 12 条第1項の規定に基づく通知内容の概要

A:H25年2月に千葉県にて除菌剤(プレート型)を首から下げて幼児を抱っこしていたところ、乳幼児の胸部が化学火傷を負う事故が報告されたこと等から消費者省、厚生労働省から自主回収を開始したとの報告があった。

https://www.caa.go.jp/safety/pdf/130218kouhyou_1.pdf

当該商品は「安定化二酸化塩素」ではなく「次亜塩素酸ナトリウム」が使用されていた。次亜塩素酸ナトリウムも食品添加物として使用されており、不適切な使用による事故例といえる。今回の事例は「次亜塩素酸ナトリウム」であったが、同様に食品添加物であることを根拠に安全であるとうたっている商品も数多く見られることから注意していただきたい。

Q:ノロウイルス対策としての消毒剤について

A:ノロウイルスの培養系は未だ確立されておらず、現状は消毒剤によるノロウイルスの不活化効果を直接試験することはできない。このため代替ウイルスとして近縁種のネコカリシウイルスなどを用いた評価により消毒剤の評価がされている。
有効な消毒方法として広く認識されているのは1000 ppm~5000 ppm の濃度の次亜塩素酸ナトリウムを用いる方法であるが、この濃度の次亜塩素酸ナトリウムは腐食性が強く、また塩素臭もきついので、実際にノロウイルスによる事故が起こってしまったときは別として毎日の衛生管理では使用しにくいという側面もある。
また、次亜塩素酸ナトリウム以外の消毒剤としては、過酢酸、アルカリ剤、あるいはエタノールとアルカリ剤と陽イオン界面活性剤の組み合わせ等が有効であるとの知見が報告されている。
ただし、次亜塩素酸ナトリウム以外の消毒剤はネコカリシウイルスなどを用いた不活化試験で効果があるとされたものを選定することが大切である。

Q: 患者のふん便や吐ぶつを処理する際の注意は

A:ノロウイルスが感染・増殖する部位は小腸と考えられており、嘔吐症状が強いときには、小腸の内容物とともにウイルスが逆流して、吐ぶつとともに排泄される。このため、ふん便と同様に吐ぶつ中にも大量のウイルスが存在し感染源となりうるので、その処理には十分注意する必要である。12日以上前にノロウイルスに汚染されたカーペットを通じて、感染が起きた事例も知られており、時間が経っても、患者の吐ぶつ、ふん便やそれらにより汚染された床や手袋などには、感染力のあるウイルスが残っている可能性があることから、これら感染源となるものは必ず処理をするようにしたい。
床等に飛び散った患者の吐ぶつやふん便を処理するときには、使い捨てのエプロン、マスクと手袋を着用し汚物中のウイルスが飛び散らないように、ふん便、吐ぶつをペーパータオル等で静かに拭き取る。拭き取った後は、次亜塩素酸ナトリウム※(塩素濃度約200ppm)で浸すように床を拭き取り、その後水拭きをする。おむつ等は、速やかに閉じてふん便等を包み込む。
おむつや拭き取りに使用したペーパータオル等は、ビニール袋に密閉して廃棄する。(この際、ビニール袋に廃棄物が充分に浸る量の次亜塩素酸ナトリウム※(塩素濃度約1,000ppm)を入れることが望ましい。)また、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、吐ぶつやふん便は乾燥しないうちに床等に残らないよう速やかに処理し、処理した後はウイルスが屋外に出て行くよう空気の流れに注意しながら十分に喚気を行うことが感染防止に重要である。
11月頃から2月の間に、乳幼児や高齢者の間でノロウイルスによる急性胃腸炎が流行する。この時期の乳幼児や高齢者の下痢便および吐ぶつには、ノロウイルスが大量に含まれていることがあるのので、おむつ等の取扱いには十分注意すべきである。

※塩素系の漂白剤(使用に当たっては「使用上の注意」を確認すること。)

Q:感染者が発生した場合の環境消毒は

A:ノロウイルスは感染力が強く、環境(ドアノブ、カーテン、リネン類、日用品など)からもウイルスが検出されることがある。感染者が発生した場合、消毒が必要な場合は次亜塩素酸ナトリウム※などを使用する。ただし、次亜塩素酸ナトリウム※は金属腐食性があるので、消毒後の薬剤の拭き取りを十分にするよう注意すべきである。

※塩素系の漂白剤(使用に当たっては「使用上の注意」を確認すること。)

Q:ノロウイルスに対する消毒剤について

A:学校等におけるノロウイルス対策の消毒剤としては、上記の次亜塩素酸ナトリウムを使用する方法を標準法として、これを採用・利用できる体制の確立がまず望まれる。
その上で次亜塩素酸ナトリウムがどうしても使用できない等の理由がある場合、代替の方法を学校医・学校薬剤師の指導助言等を参考に教育委員会等と相談の上で判断することを推奨する。

Q:安定化二酸化塩素について留意すること

A:

  1. 商品の長所・短所の記述では純粋二酸化塩素水溶液またはそのガスに対して適用されるものがほとんどであって、安定化二酸化塩素には適用できないこと
  2. ノロウイルス対策としては次亜塩素酸ナトリウム以外の消毒剤はネコカリシウイルスなどを 用いた不活化試験で効果があるとされたものを選定することとされていること
  3. 我が国では二酸化塩素は消毒薬としては未認可であること
  4. 純粋二酸化塩素水溶液は次亜塩素酸ナトリウムと較べて高価であること

    等に留意したい。

 

Q:塩素系消毒剤の濃度と用途ついて

A:使用濃度については下表の通り

塩素濃度 使用用途
0.02% (200 ppm) 日常の清掃時
調理台や調理器具・床・ドアノブ・便座・おもちゃ等の消毒
0.1% (1000 ppm) 嘔吐物や排泄物で高濃度に汚染された場所や物

※金属製器材には用いない。

<参考>市販の塩素系漂白剤とペットボトルを利用して作る場合
(誤飲防止のための表示は確実にすること!!できれば飲用ボトルの利用は避けることが望ましい)

<1>塩素濃度 0.02%の消毒薬を作る

   塩素剤の濃度

消毒薬の量
1%
(ミルトン等)
5~6%
(ハイター、ピューラックス等)
全量2Lの時 40ml(キャップ8杯) 8ml(キャップ 1.5杯)
全量500mlの時 10ml(キャップ2杯) 2ml(キャップ約半分)

<2>塩素濃度 0.1%の消毒薬を作る

   塩素剤の濃度

消毒薬の量
1%
(ミルトン等)
5~6%
(ハイター、ピューラックス等)
全量2Lの時 200ml 40ml(キャップ8杯)
全量500mlの時 50ml(キャップ10杯) 10ml(キャップ2杯)

※消毒薬の調整は用事調整に心がける。作り置きはやめましょう!!

(文責:公益社団法人日本薬剤師会理事 村松章伊)

掲載日時:2014/03/12