たなか成長クリニック院長
成長科学協会理事・日本成長学会理事長
田中 敏章
肥満が伴った成長率の低下は要注意!(その2)
8歳のD君は、最近の成長率が悪いことを主訴に外来を訪れました。来院時の身長124.0cm(-2.00SD)、体重38kg(肥満度+78%)で、低身長と高度の肥満が認められました。成長曲線を描いてみると、生まれたときはほぼ標準の体格で、その後も5歳まではほぼ平均身長・体重に沿って成長していましたが、5歳以後成長率が急激に低下しました。しかし、体重は急激に増え続けていました(図1)。肥満度曲線を描いてみると、5歳以降急激に肥満度が増加していることが判ります(図2)。6歳6ヶ月過ぎより顔にニキビがではじめ、下腿や前腕の多毛傾向が見られはじめました。
診察所見では、満月様顔貌が認められ、ニキビが著明でした。中心性肥満で、肩の後ろが盛り上がり、いわゆる水牛様肩を示していました。精巣容量は3mlで、骨年齢は6歳と遅れていました。
入院精査の結果、成長ホルモンの分泌は正常で、甲状腺ホルモンにも異常がありませんでした。しかし、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)は、通常朝が高く夕方以降低くなるという日内変動が認められず、1日中高値を示しており、クッシング症候群(図3)が疑われました。クッシング症候群は、副腎の腫瘍によりコルチゾール分泌が多くなる病気です。その時は、副腎から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は、コルチゾールが高いことでフィードバック機構が働いて低値になるのですが(図3)、ACTHも高値のまま推移していました。腹部のCTでは副腎には腫瘍がなく、頭部のMRIで下垂体右下縁に2?3mmの低濃度領域が認められ、下垂体のACTH産生腫瘍によるクッシング病(図3)と診断されました。経蝶骨洞手術により腫瘍の摘出が行われました。
副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されると、食欲が亢進して体重が増加し、同時に副腎皮質ホルモンは成長を抑制するため、肥満が急激に進行し、低身長になっていくのです。満月様顔貌や多毛傾向も、特徴的な症状です。副腎腫瘍によるクッシング症候群も、同様の症状を示します。
肥満を伴った成長率の低下は、腫瘍による病気によることもあるので、要注意です。
* 日本学校保健会が販売しているソフトで、成長曲線・肥満度曲線を作成しています。