たなか成長クリニック院長
成長科学協会理事・日本成長学会理事長
田中 敏章
成長率の低下を早く見つけて、脳腫瘍の早期発見を!
7歳のE君は、最近の視力低下を主訴に受診しました。検査で左視神経の萎縮が認められました。成長曲線を描いてみると(図1)、生まれたときはほぼ標準の体格で、その後も4歳までは平均身長・体重を少し上回って標準曲線に平行に沿って成長していました。しかし4歳以後成長率が急激に低下しています。体重の増え具合も低下してきています。検査の結果、頭蓋咽頭腫という脳腫瘍が発見されました。手術によって腫瘍は摘出されましたが、術後も視力は回復しませんでした。
頭蓋咽頭腫の症状としては、視野障害や視力障害の眼の症状、慢性的な頭痛、成長障害などが認められます。虎の門病院小児科の伊藤純子先生の報告では、眼の症状を主訴にした9例のうち、7例で診断時期に先立つこと平均2.1年から成長障害が認められていました。この症例も、診断された3年前から明らかな成長障害が認められています。
こどもに多い脳腫瘍は、ほかにラトケ嚢胞や胚芽腫がありますが、伊藤先生が頭蓋咽頭腫を含めた脳腫瘍50例の成長曲線を検討したところ、32例に腫瘍の診断時期より平均3年前から成長障害が認められていました。
眼の症状、多尿、慢性的な頭痛に加えて、成長率の低下を伴う場合には、脳腫瘍の可能性を考える必要があります。成長曲線をつけていれば、低身長がなくても成長率の低下を成長曲線上に認めることにより、脳腫瘍の早期発見のきっかけになることもあります。
* 日本学校保健会で販売しているソフトで、成長曲線・肥満度曲線を作成しています。
* 本症例は、虎の門病院小児科伊藤純子先生からの提供を受けました。