第5回「感染症」

〔目次〕

I 最近流行した感染症、これから流行が懸念される感染症とその対応

国立感染症研究所感染症情報センター 岡部信彦 センター長

II 学校における結核検診について

文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課 有賀玲子 専門官

聞き手・文作成/日本学校保健会事務局 

Ⅱ.学校における結核検診について

――はじめに、今回の結核検診の変更に至るまでの経緯をお願いします。

小中学校児童生徒の定期健康診断における結核検診は、平成14年6月に文部科学省に設置された「学校における結核対策に関する協力者会議」の報告書「学校における今後の結核対策について」をふまえ、平成15年4月の学校保健法施行規則改正により、それまで実施されていたツベルクリン反応検査が廃止されました。また、結核の早期発見・早期治療の機会を確保するため、全学年において問診が行われるようになりました。

高等学校、高等専門学校、大学の生徒学生の結核検診は、結核予防法の改正等をふまえ、平成17年4月の学校保健法施行規則の改正で高等学校、高等専門学校の第一学年及び第四学年以上、大学の全学年で行っていたエックス線間接撮影による検査がそれぞれ第一学年のみ実施することとなりました。

平成14年の報告書には、「今後、この新しい結核対策が有効に機能しているかどうかを一定の期間、結核発生の動向や健康診断結果を把握し分析するなど、評価を行っていく必要がある」とされており、文部科学省では今年度新たに「学校における結核検診に関する検討会」を設置して、改正後の実態把握や課題の検討を重ねたところ、8月に報告書としてまとめました。

前回改正のあった平成15年度から20年度までの小中学生の結核患者の状況は次の表のとおりです。

結核を発症した児童生徒
295名(男子171名、女子124名)
◆うち学校健診をきっかけに発見された児童生徒
19名
◆健診時の問診票で該当した項目(複数回答)
本人の予防内服歴あり
1名
家族に結核患者あり
8名
高まん延国の居住歴あり
8名
自覚症状あり
1名
BCG未接種
2名

※学校における結核検診に関する検討会報告書(平成23年8月12日)より

――小中学生の結核検診はどのように変わるのでしょうか?

今回の報告書をふまえ、小中学生の結核検診で変更点として2点があげられます。一つは問診票の取り扱い、もう一つは学校医による精密検査の指示です。

これまでの定期健康診断では保健調査票や健康診断票等とは別に問診票が必要とされていました。しかし、問診票が必要なのは結核だけで、前記の調査結果からみられますように特に重要なことは「家族等の結核罹患歴」「高まん延国の居住歴」です。そこで検討会では、これらの項目は問診票に関係なく学校で漏れなく確認し、学校医へ診察前の情報として提示するべきであるとして、問診票は保健調査票等に統合してよいという話になりました。 

また、精密検査を行うにあたっては、現行では「結核対策委員会を開催し、その意見を聞くこと」とされていますが、これまでの実績で事例ごとの適切な対応方法はある程度蓄積されてきています。そこで今回の報告書では、「結核診療を専門としない学校医が診断する際に参考とする基準やマニュアルを示すことができれば、学校医が直接精密検査を指示することは十分可能であると考えられる」という記載になっています。

以上をふまえ、今後の結核検診の概略は、次の通りです。

 1)定期健康診断の項目としての「結核の有無」の維持

 2)対象者:全学年(現行通り)

 3)問診票:保健調査等に統合してもよい

 4)学校医が直接精密検査を指示することができる

※高等学校、高等専門学校、大学の生徒学生の結核検診については、平成23年4月1日改正の学校保健安全法施行規則の通りです。

 

――今回の改正の留意点をお願いします。

小中学生の結核検診の変更点として問診票の取り扱いをあげましたが、これは問診をなくすというわけではありません。

これまでの問診票は「定期健診における結核検診マニュアル」で形式が指定されていました。今後はほかの調査票と統合できるようになったのですが、従来の問診票を使用してもよく、つまり形式にこだわらずに保健管理をしっかり行ってくださいということです。問診票を使うか使わないかということが目的ではなく、結核を見つけるという目的は変わらないのです。

また、学校医による精密検査の指示ということですが、これは、従来の結核対策委員会はやってはいけないということではありません。何らかの形で結核について専門的知見を有する方のご意見を踏まえて精密検査を実施するということも可能ですし、「結核検診マニュアル」の問診票を使用し、結核対策委員会を開催して精密検査の実施について検討していただくという、これまでの方法を変えずに踏襲するということでも何も問題はありません。地域や学校の実情に応じた手順で結核検診および精密検査を実施していただくために、幅を持たせたということです。

結核の発病はいつでも起こり得ます。学校は集団生活の場であり、結核に限らず感染症が発生した場合はまん延しやすい状況にあります。まん延を防ぐには、日常において早期発見・早期対応に努めることが大切です。そのためには養護教諭だけでなく、全教職員が学校で流行る可能性のある感染症の知識を十分に持たなければ早期発見・対応につながりませんので、教職員・保護者・児童生徒向けのパンフレットなどで日頃から啓発していく必要があります。

結核については報告書では、特に高まん延国の居住歴や発症リスクの高い児童生徒には定期健診時だけでなく常日頃から健康観察に注意を払うよう啓発し、転入生については転入前の学校での健康診断や保健調査等の結果の確認、必要のある場合は学校医の診察を受けさせるなどの対応をとることが重要で、特に外国からの転入生でそれまでの健康診断票等がない子どもに対しては重点的に対応するべきとしています。

日本は世界的に見ると依然として結核の中まん延国です。現時点でも学校における結核対策はとても重要となっています。

――そのほかになにかありますでしょうか?

結核もそうですが、学校においては、感染症の場合出席停止の措置が取られることがあります。たまに、進学や進級などの出席日数に関わるので学校感染症でない病気でも出席停止の措置をとってもいいのかというご質問をいただきますが、出席停止という措置は、学校において感染症のまん延を予防するために行われると、学校保健安全法の施行規則のなかで決められているものです。欠席日数を増やさないことが主たる目的ではありませんので、その点はご理解いただきたいと思います。