4.のどの健康
3.のどの健康
Q. 子どもに多いのどの疾患はどんなものがありますか。
A1. アデノイド:鼻腔後方咽頭の上方に見られる扁桃組織です。アデノイドは6〜7歳をピークとする生理的肥大がみられ、さらに感染により肥大します。その後、自然退縮が始まり通常成人ではみられません。
ケア:位置的に鼻呼吸障害、いびき、日中の口呼吸、特有な顔貌などを呈します。滲出性中耳炎が頻回に合併することがあります。この様な症状に注意します。自然消退による改善が見込めない場合には、手術が必要となることもあります。
A2. 扁桃肥大:高度の肥大のためにのどが狭くなり、呼吸、嚥下の障害をきたす恐れのあるもので、慢性炎症所見の少ないものをさします。口蓋扁桃は7〜8歳で生理的肥大のピークがあって、その後自然退縮します。成人となってもアデノイドの様に消失することはありません。
ケア:いびき、無呼吸などの夜間の呼吸状態や(睡眠時無呼吸症候群:別項参照)、食事に時間がかからないかなどに注意します。睡眠時無呼吸は生活習慣病につながるとも言われます。成長とともに改善が見込まれる場合もありますが、症状が持続するものは手術を考慮します。
A3. 扁桃炎:他覚的に明らかに扁桃の慢性炎症所見のあるものをさします。後述する反復性扁桃炎、病巣感染源と思われるものが特に注意を要します。その他口蓋扁桃に著しく異常の認められるものを含みます。
<1> 反復性扁桃炎
急性扁桃炎を繰り返す病態をいいます。反復する原因は、扁桃における細菌感染よりも扁桃自体の免疫能が関連するとの報告もあります。診断する上で罹患回数が指標となります。我が国では、年に4回以上繰り返すこととする意見が多くみられます。
ケア:扁桃炎罹患回数が多い場合には、自然寛解が得られにくいことから手術が勧められます。
<2> 扁桃病巣感染
扁桃に炎症性病変や免疫異常が起こり、他臓器に二次的疾患が生ずる場合を「扁桃病巣感染症」といいます。小児ではA群溶連菌の扁桃での持続感染による二次的疾患が重要です。
ケア:溶連菌感染では通常は扁桃炎で終わりますが、まれに関節炎と発熱を起こし心臓に影響を及ぼすリウマチ熱や腎臓の機能を低下させる腎炎を起こすことがあります。菌が残り繰り返し扁桃炎を起こす場合には菌の完全除去やリウマチ熱の予防のために扁桃をとることを勧めます。
A4. 音声異常:小児の音声障害の特徴には以下の様な点が挙げられます。
就学前あるいは小学校低学年男児では声帯結節が好発します。ただ変声期を過ぎれば大部分は消失します。声帯結節以外に喉頭横隔膜症、喉頭麻痺、乳頭腫等の場合もあるので注意を要します。小学校高学年、中学1、2年では変声期があり、嗄声、喉頭異常感が起こります。大部分が自然消退しますが、遷延性変声として治療を要する場合もあります。声帯結節、喉頭乳頭腫に関して記述します。
<1> 声帯結節・声帯ポリープ
声帯結節とは両側の声帯の中央にできるむくみで、時間とともに線維化といって、固くなります。
原因:音声酷使や間違った発声法、急性の炎症によりできます。
ケア:前述のように、自然治癒が期待できるので保存的に声の衛生管理をします。「声の衛生」とは、「大きな声を出さない、ささやき声で話さず、ふつうの声で話すように心がける、騒音下で話さない、長電話をしない」などの日常生活での話し方の注意です。
<2> 喉頭乳頭腫
喉頭乳頭腫は二峰性の年齢分布を持ち、若年型と成人型に分かれます。若年型は5歳以下に多く、成人型は30歳代に多くみられます。若年型は進行が速く、気道閉鎖により生命を脅かすこともあり、治療に長期間を要し、その間のQOLを著しく損ないます。
原因:若年型の原因はヒト乳頭腫ウィルス(human papilloma virus:HPV)です。
ケア:アメリカでの推定頻度は14歳以下で10万人対4.3人とまれな疾患です。嗄声や呼吸障害を訴えることから診断されます。治療経過は多様で、通常は何年もかかり、繰り返す再発、気道狭窄などの合併症を伴うなど、多くの場合、非常に困難です。
A5. 言語異常:話をする際に使われる器官の形態の異常や使い方の異常で起こる構音障害、言語発達遅滞及び吃音などがあります。後述する口蓋裂は器官の形態の異常に含まれます。
ケア:言語障害はコミュニケーション障害であるため、子どもを取り巻く環境との関連からとらえる必要があります。周囲の人たちが子どものことばをどう聞いているか、子どもの気持ちをどの様にとらえるか考慮する必要があります。また、言語障害は目立ちにくいので、子どもが困っている状況にあっても気付かれない可能性があります。自己表現がうまくできず、コミュニケーション障害を生ずることから満たされない気持ちになり、消極的になり、健全な成長・発達の障害になることもあります。また、構音器官の状態、聴覚、言語中枢と関わる問題であるので、医学的な介入が必要です。
A6. 口腔:唇裂、口蓋裂及びその他の口腔の慢性疾患に注意します。
<1> 口唇口蓋裂
特に見逃しやすいのは粘膜下口蓋裂で、外観上はわからないため、構音障害(前述)があってから気付かれることも少なくありません。口の中をのぞくと、軟口蓋の表面はつながっているが、中の筋肉の真ん中の部分がない状態で、発音をするとき鼻咽腔閉鎖(鼻とのどの間がふさがること)が十分にできないため、声が鼻に漏れるという現象が起こります。
原因:環境的要因と遺伝的要因が交錯する多因子しきい説が有力です。
ケア:構音障害、滲出性中耳炎、歯列異常を生じやすく、そのため、そのそれぞれに対し、治療が必要となります。
<2> 口内炎
手足口病、ヘルパンギーナにともなうものや、ヘルペス性口内炎、アフタ性口内炎などがあります。
原因:ウィルス感染に伴うものが多いのですが、アフタ性口内炎のように原因が特定されていないものや、血液疾患に伴うものもあります。
ケア:大部分の予後は良好です。ウィルス感染によるものには感染力が強いものもあり、登校に関しては医師の指示に従ってください。また難治性では原因疾患がある場合があり、診療所での診断を受ける必要があります。
<3> 舌小帯短縮症
舌小帯とは舌の下面正中から下顎の歯肉部正中につながる索状あるいは膜様組織をいいます。この部分が異常に短くなっている状態を指します。
原因:胎生期の形成不全
ケア:構音障害や歯列・咬合への影響があるとも言われるが、よほど重度でない限り手術適応となるケースはまれです。
Q. 子どもの睡眠時無呼吸症候群について教えてください。
A. 睡眠中に呼吸が停止しさまざまな症状を呈してくる病態を睡眠時無呼吸症候群といいます。起きているとき(覚醒時)にはなんともなく寝入ったときに(睡眠時)さまざまな症状が出てくることを睡眠呼吸障害と呼び、よく観察される現象にはいびきや歯ぎしり、呼吸の途中でいきがとまる無呼吸などがあります。おおよそ10秒を超える無呼吸が見られる場合に睡眠時無呼吸症候群と総称しますが、無呼吸は睡眠呼吸障害の一現象であり、とくに小児の場合には無呼吸が無くても睡眠呼吸障害を来していることが少なくありません。
小児の睡眠時無呼吸には大きく2つの成因があります。一つは呼吸をコントロールする脳の中枢が未成熟なために、睡眠時にリズムが乱れ呼吸が停止する現象で中枢性睡眠時無呼吸症候群といわれます。肢体不自由や病弱の特別支援学校に在籍する児童生徒などで見られることがありますが、頻度的にはそれほど多いものではありません。もう一つの原因は、睡眠時に上気道に狭窄が生じて息が止まる閉塞性睡眠時無呼吸症候群と呼ばれるもので、子どもではこちらが大半を占めています。口腔やのどの部分は目が醒めているときは周囲の筋肉の働きによって気道は広く保たれていますが、入眠に伴って全身の筋肉と同じように弛緩(たるみ)し、息を吸い込むときの陰圧に伴って気道は狭くなり、ついには完全閉塞して無呼吸が出現します。鼻の病気があって鼻の通り道が狭い場合、下顎が小さくて口腔が狭い場合、そして肥満などが原因となります。皮膚の下に脂肪がつくように、気道の壁にも脂肪がついて気道が狭くなります。しかし、小児の場合の最も大きな原因は口蓋扁桃肥大やアデノイド(鼻の奥の突き当たりの咽頭扁桃の肥大のこと、図の→部分)です。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の場合は、気道の狭窄のサインである吸気性の大きないびきに引き続いて、気道が完全閉塞し無呼吸という現象が出現します。このような状態では、熟睡できないことは勿論のこと、全身に十分な酸素が供給されないためにさまざまな症状が出現します。睡眠中に突然のむせや咳、夜尿、多量の寝汗、また頻回の途中覚醒などが見られます。夜間十分な睡眠がとれないために、昼間の眠気や居眠り、イライラや衝動的行動、さらには集中力が続かず学習意欲の低下につながっています。入眠早期の深い眠りに伴って分泌される成長ホルモンというものがあります。このホルモンは大人ではからだの痛んだ細胞の修復に働きますが、子どもの場合文字通り心身の発育に大きく関わっています。重症の睡眠時呼吸障害のこどものばあい、成長ホルモンの分泌が十分でなく、体重や身長の伸びが悪く、小柄でやせた子どもが多く見られます。また、長時間呼吸障害が続くと、鳩胸や漏斗胸のような胸郭変形もきたします。本児の場合はアデノイド肥大による口呼吸があり、鼻の下から口角にかけての皺(鼻唇溝)が消失しポカーンとした顔貌、いわゆるアデノイド顔貌が認められます。
口蓋扁桃やアデノイドが原因の場合、手術的治療(アデノイド、口蓋扁桃摘出術)によって、劇的に症状は改善します。いびきや無呼吸は消失し、昼間の眠気やイライラは改善します。やせで小柄な子ども、また逆に睡眠覚醒リズムの乱れに伴った大食や運動不足のために肥満を来している子どもの身長や体重は徐々に正常曲線に近づいてゆきます。鼻が原因の場合は鼻の治療が必要です。重度の肥満や下顎狭小などの生来的な形態異常の場合には、成人でよく用いられる経鼻持続陽圧呼吸法(nCPAP)が必要なこともあります。
子どもの睡眠時無呼吸症候群の大半は適切な治療を行うことで、見違えるほど日常生活の質を改善することが出来ます。本疾患が疑われる場合には耳鼻咽喉科などの専門機関を受診することをお勧め下さい。
Q. そのほか、のどの健康で留意することはありますでしょうか。
A. のどは摂食、呼吸、さらには、発語などのコミュニケーションにも関わる器官で、学校生活のみならず、生命維持に関しても重要な役割を持ちます。のどにできる疾患はのどが常に外界にさらされるところであることが影響しています。このことからうがいやマスクが大事であることがわかります。また、消化管として食物や、逆に、胃・食道からの影響も受けます。そのため、日頃から、食べ物の内容や規則正しい食事をとることで胃腸の調子を整えておくことが大事となります。
のどの疾患やコミュニケーション障害に関わる機能に関しては、耳鼻咽喉科学校健診が問題があるかどうかを検討するための重要な機会の一つとなります。