近年、文部科学省の調査などで、クラブチームや部活動などで盛んに運動に励む子どもが増えている反面、学校の体育授業以外ではほとんど運動をしない子どもが増え、二極化が顕著になっています。学校の保健室へもいろいろなスポーツ障害でやってくる子どもが増えています。そこでスポーツ障害に関して養護教諭の先生のご質問に、専門医の先生からご回答をいただきました。
回答者:古谷 正博 先生
横浜市医師会会長
日本整形外科学会(JOA)スポーツ委員会委員
日本臨床整形外科学会(JCOA)スポーツ学校保健委員会担当理事
1.【応急手当】
Q リレーで勢いよく走ったら、右股関節のあたりが痛くなり、歩けなくなった生徒がいました。 受診したら、裂離骨折と言われました。こういう場合の応急処置や予防の方法を教えてください。
Q スポーツ障害の応急処置として、保健室で用意しておくとよいものがあれば、教えてください。
【応急手当】
Q. サッカーの練習中に薬指が相手のビブスにひっかかり、指関節が曲がって伸ばしにくくなりました。 受診したら突き指ということで、1週間湿布を貼って安静にといわれました。こんな場合の適切な応急処置とはどんなものでしょうか。また、事後はどのようにすればいいのでしょうか。
A. 突き指の場合に限らず、スポーツでけがをした場合の応急処置の基本は「RICE処置」です。RICE処置とは、「rest(安静)」「ice(冷却)」「compression(圧迫)」「elevation(拳上)」の四つの頭文字を並べた処置法です。特にこのような指先の突き指が疑われる場合にも腱の断裂や裂離骨折といって腱の付着部の骨がはがれたり、骨片が大きく関節が外れていたりする場合があります。「突き指は引っ張って治せ」という誤った知識が広まっていますが、けっして勝手な判断で指を引っ張ったり、ひねったり、押し込んだりせず、仮固定をし、氷や保冷剤で冷やし、手を下げないようにして、早めに整形外科医の診断を受けてください。
事後措置としては、突き指と一言にいっても単純な打撲や捻挫であることもあれば、下記のように腱の断裂や骨折などさまざまな場合がありますので、専門医・医療機関の治療方針に従ってください。
Q. リレーで勢いよく走ったら、右股関節のあたりが痛くなり、歩けなくなった生徒がいました。 受診したら、裂離骨折と言われました。こういう場合の応急処置や予防の方法を教えてください。
A. 裂離骨折とは、筋・腱・靭帯などの牽引力によって、その付着部の骨が引き裂かれて骨折することをいいます。ご質問のような症状は「骨盤裂離骨折」といいます。成長期の骨盤では骨端線(骨の端にある軟骨が骨にかわってゆく境目の部分。大人になるにつれ骨端線はなくなり骨の成長が終了します)が残っているため、その時期にランニングやダッシュ、ジャンプ、キックなどで筋肉の急激な収縮による牽引力で骨端線部に裂離骨折が起こります。骨盤の上のあたり(上前腸骨棘)や股関節の前方(下前腸骨棘)、臀部の下(坐骨結節)に歩けないほどの強い痛みあれば、この裂離骨折が疑われます。
こういう場合の応急処置はやはりRICE処置が原則で安静が求められます。部位が部位ですので、歩行にはできましたら松葉づえを使用してください。
予防としては、十分な準備運動を行い、また、いきなりダッシュなどから運動を行わず、段階を追って徐々に運動を強めるような練習を工夫してください。s
Q. スポーツ障害の応急処置として、保健室で用意しておくとよいものがあれば、教えてください。
A. 応急処置の基本はやはりRICE処置ですので、必要な器材としては、「製氷機(冷凍冷蔵庫で可)」「ビニール袋」「保冷剤」「弾力包帯」「包帯(バンテージ)」「三角巾」などのほかにも、可能であれば「シーネ」や「松葉杖」があればいいですね。「シーネ」とは、医療機関などで靭帯損傷や骨折の際に患部の固定を行う添え木のことで、L字型・U字型にも曲げて使えるもので様々なサイズがあります。