第18回 Q&A「歯と口の健康づくり」

3.「歯・口の健康づくり」の指導

Q よく噛んで食べる習慣づけについての指導の在り方は?

A. 噛んで食べることは学習です。哺乳が反射であるのに対して、「噛んで飲み込む」機能の中には「美味しさ」を味わったり、食材の色や形を鑑賞したり、香りや噛みごたえを楽しんだり、という五感の関与があって豊かな食生活になります。そのような豊かな食生活を推進するためにも「楽しめる食事環境」の形成が必要です。

 

このような五感をはぐくむためにも、上手に噛めるように育てる支援が大切であることはいうまでもありません。

 
 

よく噛んで食べるためには、特に授乳から離乳にかけての食の適正な進め方が大切です。一方、噛む回数の変化をみていると、3歳児以降で噛む回数に個人差が出てくるようです。噛まないで飲み込んでしまう子どもや、いつまでも口の中に残っているような子どもの場合には、噛んでから飲み込むまでのタイミングが上手に取れていない子どもがいます。「モグモグ、モグモグ、ゴックン」とリズムをつけながら練習するとよいでしょう。小学校では特に、乳歯から永久歯に交換する時代の4年生から5年生で噛めなくなったり、噛みにくい食材が出てきたりします。歯の交換の状況をみながら無理することなく、ゆっくりと食べさせてください。

厚生労働省に設置された「歯科保健と食育の在り方に関する検討会」の報告書(平成21年7月)の中では、食育推進に向けた今後の取組を各ライフステージにおける「食べ方」支援を中心とした方策として提言し、その行動目標として「噛ミング30(カミング サンマルと読む)」を提唱しています。これは「一口30回噛もう」という咀嚼目標でもありますが、30という回数にこだわるものではなく、「よく噛むとおいしく味わえ、健康にもいい」というメッセージとして広めてもらえればと思います。

Q 歯・口の清掃の開始と習慣化はどのように指導するか?

A. 幼児期の歯みがきは「基本的生活習慣」に位置づけられる清潔行動です。3歳過ぎて自我が芽生えてくると自分でやりたがりますが、保護者による「仕上げみがき」が必要です。保護者による仕上げみがきは、概ね小学校の中学年で乳歯と永久歯の交換期で歯みがきが難しい年齢まで実施してあげるとよいでしょう。もちろん、幼稚園児ではしっかりとみがき直しをしてあげますが、小学校の中学年ではみがききれない部分だけでよいので時間的にも短くなります。歯みがきは、最初は保護者がしてあげていますが、徐々に子どもが鏡を見ながら自分自身でみがくような自律的行動に変容させていくことが必要です。小学生になったからとか、中学生になったからとかというような理由で健康行動を子ども任せにすることは正しい選択とはいえません。少しずつ、子どもができるように支援してあげることが、すべての健康行動の確立に役立っています。 さて、歯には、部位によってむし歯になりやすいところがあります。保護者が子どもの歯みがきをしてあげるときには、子どもが嫌がらないように、みがく場所も一定に、みがく時間も一定にすることが歯みがきを嫌がられないポイントです。

1)上の前歯: 左手の人差し指で上唇小帯(唇と歯ぐきを結んでいる粘膜)をカバーして横に小さく歯ブラシを動かして10回数える。
2)上の奥歯: 左手の人差し指を歯ぐきに当てて歯ブラシを動かすガイドにして10回。左右の奥歯をみがく。
3)下の奥歯: 左手の人差し指を歯ぐきに当てて歯ブラシを動かすガイドにして10回。
4)最後に下の前歯: 下の前歯は最もむし歯になりにくい部位ですので、最後に子どもが嫌がっても少し歯ブラシが届いていれば大丈夫です。

文部科学省の歯科保健参考資料には、歯みがきのポイントについて、次のように記載されています。

  • (1) 歯みがきの基本
    • *歯ブラシの毛先を使って,歯垢を落とす。
    • *毛先の部分を,歯の面に対して直角方向に当てる。
    • *軽い力で小刻みに動かす。
    • これが歯みがきの基本動作であり,このようにみがいた時,歯垢を効果的に落とすことができる。また,歯垢が付きやすく取り残しやすい“奥歯の噛み合わせの部分,歯と歯肉の境の部分,歯と歯の間の部分”がむし歯や歯肉炎の起きやすい場所である。歯みがきは,これらの部分をよく確認して行う必要がある。
    • そこで,以下(<1>〜<4>)の工夫をしてみると効果的である。
  • <1>適切な歯ブラシを選ぶ
    • 毛先を歯のすべての面に届かせ,効果的にみがくためには,使いやすい歯ブラシを選ぶ必要がある。(Q&A9参照)
    • 毛先が開いたり,ある程度使用して毛先の弾力が減少した歯ブラシは,うまく歯面に当たりにくいので早く取り替える必要がある。
  • <2>歯ブラシの持ち方を工夫する
    • 手指の機能発達や器用さは子どもにより様々なので,歯ブラシの持ち方,にぎり方などは特に指示せず,自由に工夫させることが大切であるが,強く握り過ぎないように指導する。
  • <3>歯ブラシの毛先の面を使い分ける
    • 歯ブラシの毛先をすべての歯面に届かせるためには,みがこうとする場所に応じて,毛先を使い分けると効果的である。
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      歯ブラシの部分の呼び方の一例(文部科学省 学校歯科保健参考資料より)
  • <4>歯の形,歯並びにあわせてみがく
    • 歯の形は1本1本丸みをおびており,前歯はシャベルのような形をし,臼歯のかみ合わせ面には複雑な溝がある。また,歯並びは一人一人さまざまである。したがって,効果的に歯垢を落とすためにはどのように歯ブラシを当てればよいかを子どもが自分自身で考え,みがいて確かめながら身に付けていくことが大切なのである。
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      前歯のみがき方の一例(文部科学省 学校歯科保健参考資料より)