2.色覚検診について
施行規則改正に伴う局長通知
平成26年4月30日、学校保健安全法施行規則の一部改正に伴う局長通知が全国都道府県や指定都市の教育委員会宛てに出され、健康診断の実施に関わる留意事項として色覚検診に関する指導強化の内容が示されたところです。詳細は省きますが、要約すると概ね以下の2点を推進する内容となっています。
1)保護者に対し先天色覚異常と検査の周知を図り、希望者に検査を行うこと。
2)教職員は色覚に関する正確な知識を持って色覚異常に配慮し、適切に指導を行うこと
この2点については平成14年3月の施行規則改正に伴う局長通知にも同様の記載がありましたが、色覚異常の児童生徒等が自身の色覚特性を知らないまま不利益を受けることがないよう努めること、また保健調査に色覚の項目を設けることなどして積極的に保護者への周知に努めることが示された点で異なっています。これにより各地の教育委員会と学校は新たな対応が求められているところです。
文部科学省がこのように色覚検診に関する新たな指導強化の通知を出したのは、この10年余り、多くの学校で色覚検診が実施されなくなったことで、学校生活や進学・就職に関わる様々なトラブルが多く見られるようになったからです。
先天色覚異常について
先天色覚異常は、男性の5%(20人に1人)女性の0.2%(500人に1人)の割合でみられ、40人学級で男女同数なら1クラスに1人いることになります。色がまったく分からないのではなく、異常の程度やその時の状況によって色が見分けにくいことがあります。日常生活ではほとんど不自由がなく、そのため保護者でも気づかないのが普通ですが、時に色を見誤り周囲から誤解を受けることや、色を使った授業の一部が理解しにくいことがあるため、学校においても様々な配慮が求められます。
しかしどの子どもが先天色覚異常なのかは外見だけでは分からないため、たとえ色覚異常について熟知していても十分な配慮や指導を行うことは困難です。小学校も高学年になると一部の子どもは色の感じ方について皆と違うことに気づき始めるようですが、中高生になっても約半数の者が自身の異常について気づいてないことが日本眼科医会の調査で分かりました(図4)。また同調査で自からの色覚異常について知らなかったことで、進学・就職に際してトラブルに巻き込まれた例が多くあることも確認できました。
図4 自らの色覚異常に気付いていたかどうかの割合(日本眼科医会)
学校生活に見られる問題
未就学児や小学1〜2年ではまだ周りへの関心は薄く、何事にも感じたままを表現する傾向があります。またこの年代の教材は色を多用するものが多く、絵を描く機会も少なくありません。周りの者は、強度の色覚異常の子どもが描くぬり絵の色づかいが間違っていることに気づくことはあっても、それを色覚異常のせいだとは思わず、集中していない、ふざけている等と誤解し、「ふざけては駄目、もっとしっかり見て描きなさい!」と叱咤し、当の本人は戸惑うばかりといったケースが珍しくありません。これが小学校も高学年になってくると周囲と自分を比べるようになり、また色間違いをして友達にからかわれるなどの経験をしながら自らの色の特性を知るようになってきます。
先の調査で得られた事例を以下に紹介します。
- 保育園の頃からクレヨンの赤・緑。茶の区別があいまいだった(5歳男)
- ゲーム機の充電の色(橙と黄緑)が区別できなかった(5歳男)
- 秋の葉の色という課題で緑色に塗った(7歳男)
- 理科のプリントで草や花の色をうまく塗れない(8歳男)
- 学校で色間違いをして先生に「ふざけてはダメ」といわれた(8歳男)
- 色使いが級友と違うことをからかわれた(10歳男)
- 美術部に所属しているが赤と紫の色を間違えて先生に指摘された(14歳女)
進学・就職に見られる問題
このように、小学校高学年頃から経験を踏まえながら自分の色覚特性を知り、少しづつ周りの状況に合わせることができるようになってきます。しかし先にも述べたようにこの10年余りの間、多くの学校で検査が行われなかったために、先天色覚異常の約半数は中高生になっても自らの色の特性に気づいてないことが分かりました。そのため進学・就職において様々なトラブルが起こりました。以下は事例の一部です。
- 工業高校入学後の健診で異常を指摘され、職業選択に不安を抱いた(15歳男)
- 消防の仕事を希望、願書に色覚があり検査を受けて異常を指摘された(18歳男)
- 警察官志望だったが色覚異常とわかり断念した(18歳女)
- 就職試験(自動車整備業)で初めて色覚異常を指摘されて驚いている(18歳男)
- 航空大学受験希望、本人は自覚症状なし。(22歳男)
このように進学・就職におけるトラブルは一生にかかわる問題だけに深刻なものばかりです。進路指導にあたる教職員は色覚制限のある職業や資格(航空、船舶、自衛隊、警察、消防、鉄道、バス関連など)や特別な学校(航空、船舶、鉄道、防衛、警察関連など)の他、色覚異常が不利になる職業・作業(調理師、美容師、看護師、介護士、カメラマン、ファッション関連など)を周知しておくことが求められます。
色覚検診における留意点
先天色覚異常かどうかは眼科を受診して色覚検査を受けなければ分かりません。学校での色覚検診は色覚検査表を用いて行うスクリーニング検査ですので、検査表が読めない、間違って読むなど、異常が疑われたばあいには眼科受診を勧奨します。学校に常備する色覚検査表については定めがありませんが医学的に認められたものを使用しましょう。なお広く使用されている学校用色覚検査表(石原色覚検査表12表)は現在廃盤になっており、新たに石原色覚検査表?のコンサイス版が販売されています。古くなって変色した検査表は新たに購入しましょう。
色覚検診の実施に先立ち、対象学年全員に色覚異常の説明を添えた色覚検査申込書を配布し、希望者に対する検査を行います(希望調査)。対象学年に定めはありませんが未就学児や小学校低学年で学校での問題が報告されていること、さらに進学・就職に関するトラブルが多いことから、就学後の低学年のうち(できれば検査の理解が可能となる小学1年の2学期)に実施し、さらに中学1年に行うことが望ましいと考えています。なお色覚検診の実施に際しては、事前に担当の眼科学校医と打ち合わせを行っておくのが良いでしょう。検査手技の詳細は省きますが、検査表が読めなくて困惑している子どもに向かって「この数字が読めないの!」などと自尊心を傷つけたり、恥ずかしい思いをさせるような言動は厳に慎み、粛々と作業を続けるように心がけましょう。またプライバシーに配慮し、検査は個室で行うなど、他の児童生徒に検査の様子がわからないような環境で行うことが大切です。
この度の通知により今後数年で学校での色覚検診の状況が変わることが予想されます。適切に色覚検診が実施され、そのことで一般教職員が色覚異常を正しく理解し、子どもたちに適切な配慮と指導ができるようになることを願っています。間違っても差別を助長することが無いよう十分に注意してください。