成長曲線〜学校での成長曲線の活用〜

平成26年4月に公布された「学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令」では、児童生徒等の健康診断について、子どもたちの発育を評価する上で、身長・体重成長曲線を積極的に活用するようにとなりました。
 成長曲線をグラフ化していくことは、低身長症などの疾患をみつけるためだけでなく、全ての児童生徒にとって成長の記録でもあります。
 特集第1回は、その成長曲線について、東京女子医科大学名誉教授の村田光範先生にお話を伺いました。

(聞き手:日本学校保健会事務局)

東京女子医科大学名誉教授 村田光範 先生
 

インタビュー/東京女子医科大学名誉教授
村田 光範 先生

1.成長曲線とは

Q.成長曲線はいつ、どうしてできたのでしょうか。

A.成長曲線は、子どもが生まれてから思春期を過ぎて成長が止まる(通常、子どもの身長の成長速度が1cm/年になった年齢としている)までの間、身長や体重がどのように増加していくのか、個々の身長・体重の伸び方や増え方を研究する中ではじまったのです。

欧米では、第二次大戦後間もなく、保健関係者や小児科医の調査をもとに作成され、イギリスでは1990年、アメリカでは2000年に成長曲線を改訂しています。日本でも昭和40年(1965年)ごろから本格的に厚生省が乳幼児の身長、体重、頭囲などから発育曲線(厚生労働省と文部科学省では発育曲線といっていますが、小児科関係では成長曲線という)を描こうという方向性を示し、現在では母子保健法で母子健康手帳に掲載されています。

しかし、児童生徒の成長曲線となると、最近の話になります。

Q.日本では、明治時代から学校で健康診断が行われていましたが、学校健診での身長・体重のデータは活用されなかったということでしょうか。

A.たしかに日本では、明治33年(1900年)から公立学校で定期的に身体測定が行われていました。それ自体は世界的に稀有な制度なのですが、当時の国策によって徴兵検査のような傾向があり、その時点での体の大きさなどが尊重されて、個々児童生徒の身長・体重の変化については経年的に検討していませんでした。また、戦後から現在にかけても学校健康診断の領域のなかでは個々の身長・体重をみていくという環境が整っていなかったのも事実です。それが、ようやく児童生徒全体の発育をどうみるかへの関心が高まり、個々の児童生徒の身長の伸び方や体重の増え方を成長曲線として検討することができる段階になりました。さらにパソコンの普及により学校用の共通した成長曲線作成プログラムが開発され、それぞれ学校で個々の子どもたちの成長曲線が簡単に描けるようになりました。このプログラムは、学校健康診断として個々の身長・体重の測定値を経年的に成長曲線として評価することによって、児童生徒に身長と体重の測定値の持つ意味を通知することを目的としています。

Q.現在、児童生徒のパーセンタイル曲線は平成12年(2000年)の調査データを基にしているということですが、これは今後、新しく更新されていくのでしょうか。

A.日本学校保健会で平成17年度に発行した「児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版)」にある成長曲線は、厚生労働省と文部科学省の協力を得て当時最新であった平成12年(2000年)の調査をもとに作成したもので、これが現在でも国の基準となっています。

ちなみに、我が国では、戦中から戦後にかけて著しく悪かった我が国の食糧事情や栄養状態の改善に伴って子どもの体格がよくなってきましたが、平成12年(2000年)ごろからほとんど頭打ちになっています。このことを受けて日本小児内分泌学会と日本成長学会の合同標準値委員会が日本人小児の体格基準値は平成12年(2000年)度の乳幼児身体発育調査報告書と学校保健統計調査報書に記載された数値に基づくべきであると提案しました。この提案を国も受け入れているので、よほどの事情がない限り、現在の平成12年(2000年)度の資料に基づいて作成されているパーセンタイル成長曲線基準図の改訂は、今後ともないと考えます。

成長曲線基準図といえば、通常身長と体重の成長曲線基準図(図1参照)のことをいいます。この成長曲線基準図には3、10、25、50、75、90、97の数字がついた基準線があります。この数字はパーセンタイル(百分位)といいます。分かりやすく説明すれば、3パーセンタイルの線は100人中前から3番目、50パーセンタイルは前から50番目に当る子どもの身長や体重の増え方を示しているのです。3から97パーセンタイルの間を正常範囲としています。しかし、3から97の範囲からはずれたからといって病的という訳ではなく、身長、あるいは体重の成長曲線が、これらの基準線に沿っていれば、適正であり、これらが基準線をまたいで上向き、あるいは下向きになった場合に病的原因があると考えます。また、-2.5SD(標準偏差)の基準線は極端な低身長の上限を示すものです。

肥満度曲線基準図(図1参照)には、50%(高度肥満判定基準)、30%(中等度肥満判定基準)、20%(軽度肥満判定基準)、−15%(やせ前段階基準)、−20%(やせ判定基準)、−30%(高度やせ判定基準)の基準線があります。

図1 成長曲線基準と肥満度曲線基準図
男子成長曲線基準と肥満度曲線基準図
女子成長曲線基準と肥満度曲線基準図