特集第5回

修学旅行等での児童生徒の持参薬について

公益社団法人日本薬剤師会

学校薬剤師部会 幹事 木全 勝彦

修学旅行や臨海、林間学校は学校の教育課程上、特別活動の「学校行事」として「旅行・集団宿泊的行事」に位置づけられる教育活動であり、その計画と実施及び事故防止に関しては、適切に運営されるとともに特に事故の絶無が期せられるよう指導が行われることが望まれています。

そうした中で宿泊等を伴う行事において、アレルギー疾患等の持病から薬を持参する児童生徒の増加や持病がなくともちょうど平衡機能が発達しはじめる小学生から中学生という年齢層からバス等の利用では乗物酔いを発症する児童生徒も多くみられ、実際に酔い止め薬を使用するあるいは持参する児童生徒も見られることから、こうした薬についての基礎知識とその取扱い上の注意点について簡潔に述べます。

 

まず、医薬品は平成26年6月に改正された医薬品医療機器等法で、「医療用医薬品」、「要指導医薬品」、「一般用医薬品」の大きく3つに分類され、さらに「一般用医薬品」の場合は副作用などの危険性(リスク)で第一類から第三類までの3種類に分けられています。

これは、医師から処方される医療用医薬品については、調剤・交付時に薬剤師により安全性を含めて確認されていますが、一般用医薬品については、その選択は原則として一般の購入者の自己判断に委ねられており、自分勝手な使い方をしたりすると、市販薬でも思わぬ副作用や相互作用に見舞われる危険性があることから、一般用医薬品をリスクによって分類し、購入者に対する薬剤師等からの情報提供のあり方や販売方法等を法律によって定めているためです。

そのため宿泊学習・校外学習などにおいては、原則として、児童生徒が必要に応じて一般用医薬品を持参するよう事前説明会等で保護者に依頼するとともに、児童生徒にもどういった薬を持参していて、使用上の注意等を子どもたちがどのように聞いているのか等、保護者を含めて確認し、リスク分類等によっては個別の取組プラン等の作成が必要となる場合もあります。

また、学校の救急用医薬品として修学旅行などに一般用医薬品を持って行く場合、どのような一般用医薬品を用意すればよいのかは、学校医、学校薬剤師の指導・助言に基づいて、校長が判断して決めることになり、その使用に当たっては、学校で一般用医薬品を使用する場合と同じとして下さい。

一般用医薬品について乗り物酔いを例にとると、酔い止めには子供用と大人用があり、多くは第2類医薬品として市販されていますが、含まれる薬の成分が同じでも量が違ったり、成分そのものを変えている薬もあります。また、年齢によっては使用できないものもあることなど、注意が必要となります。

 

成分名 薬物名 主な働き
抗ヒスタミン剤     塩酸メクリジン
マレイン酸クロルフェニラミン
ジメンヒドリナート
プロメタジン
ジフェンヒドラミン
ヒスタミンのH1受容体の拮抗作用によって抗アレルギー作用を有するので鼻炎薬、かぜ薬等に使用されている。さらに抗めまい作用を有することから乗り物酔いの各症状を予防、軽減する効果がある。
抗めまい剤 塩酸ジフェニドール めまいを改善すると共に制吐作用も期待できる。
副交感神経遮断剤 臭化水素酸スコポラミン 感覚混乱を軽減し吐き気やめまいを予防する
鎮吐剤 アミノ安息香酸エチル 胃粘膜の知覚神経マヒ作用により消化管の以上運動を抑え、反射性嘔吐を防ぐ。
催眠鎮静剤 ブロムワレリル尿素 嘔吐中枢の抑制作用で吐き気、めまいなどを緩和。鎮静作用で不安や緊張を除く。眠気の副作用あり。
中枢神経興奮剤  ジプロフィリン
テオフィリン
中枢神経系に働き、感覚混乱のもとになる異常な感覚入力を抑制することで効果を示す。喘息などでテオフィリンを服用している人は重複投与をさけるためこれを含まない薬を選ぶ。
  無水カフェイン 中枢神経を刺激することで、眠気がとれる。抗ヒスタミン成分の眠気が大きくなりすぎないように配合されている。解熱鎮痛剤の作用の増強も期待できる。
  ビタミンB6 たんぱく質の代謝に関わり、皮膚の抵抗力を高める。にきびやかぶれを予防。腸内細菌でもつくられるため不足することはほとんどないが、抗生物質の服用などにより腸内細菌が障害を受けたりして不足すると口内炎、口角炎、皮膚炎、かぶれなどが起こる。

 

医療用医薬品については、最近食物アレルギーに伴うアナフィラキシーへの対応としてエピペン等があります。児童生徒に教職員が医療用医薬品を使用する行為は、医行為に当たるので原則、行うことはできませんが、例外としてアレルギー疾患のある児童生徒がアナフィラキシー発症時に使用するエピペンについては、状況によっては教職員が使用する場合が考えられます。

現地の医療機関の事前調査は当然のこととして、校外活動では、普段の授業や学校給食時に比べて教職員の目が届きにくい傾向があり、過誤が生じやすいともいえます。引率するすべての教職員が食物アレルギー等を有する児童生徒の情報を十分に把握しておく必要があること、また、こうした児童生徒は抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬といった処方薬を持参している場合もあることから、校外で発症した場合の対応を含め、事前に保護者と十分話し合って緊急時の個別対応マニュアル等を作成し、それに従い訓練を実施しておくことも必要といえます。

さらに、薬には有効期限があること、特にエピペンは有効期限が短いこともあり学校で保管管理する場合には十分な注意が必要といえます。

 

最後に、学校での医薬品の取扱いについては(財)日本学校保健会から平成22年7月に発行されている「学校における薬品管理マニュアル」を概ね参考にしていただければよいと思われますが、一般用医薬品についてのリスク分類、販売方法等が法律の改正(H26年6月)によって変わってきていますので学校薬剤師に再度確認していただければ幸いです。