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Q&A「成長曲線に基づく児童生徒等の健康管理」

成長曲線研修会・準備委員会

【健康管理編】

1 成長曲線を描くことの意義

Q1 なぜ、成長曲線と肥満度曲線を描かないといけないのですか。

Q2  成長曲線と肥満度曲線を検討すると何がわかるのですか。

2 成長曲線と肥満度曲線の活用

Q1 正常な成長曲線と肥満度曲線、並びに異常な成長曲線と肥満度曲線はどのように判定するのですか。

Q2 成長曲線、肥満度曲線からどのような病気が具体的に考えられますか。

1)思春期早発症(2に該当)

2)成長ホルモン分泌不全性低身長症(3と5、また4に該当)

3)後天性甲状腺機能低下症(4と7の重複)

4)SGA性低身長症(3と5に該当)

5)愛情遮断症候群(5または4に該当)

6)肥満(7に該当)

7)やせ(9に該当)

Q3 学校医への報告はどのようにすればいいですか。

Q4 医療機関につなげるために、保護者へどのような説明をすればいいのですか。

Q5 専門医を受診するときに必要なことを教えてください。

Q6 専門機関で最初に受ける検査項目と費用について教えてください。

3 事後措置

Q1 保護者へどのように指導助言したらいいでしょうか。

Q2 成長曲線に基づく児童生徒の健康管理に限界はありますか。

【操作編】

Q1 成長障害群の検索ができないのですが。

Q2 Excel原票のデータ入力を漏れなく行ったのに、健康管理データの作成ができないのですが。

「成長曲線に基づく児童生徒等の健康管理」

【健康管理編】

1 成長曲線を描くことの意義

Q1 なぜ、成長曲線と肥満度曲線を描かないといけないのですか。

A1 成長曲線等を描くことの意義は、健康診断マニュアルのP68にある通り、適正な成長をしているか確認することや低身長等の原因となる病気等を早期に発見するためです。
 一方で、児童生徒数の多い学校では、身長や体重のデータを入力することが大変となるといったご意見もあります。これは、養護教諭が一人でデータを整理することを念頭にしている場合に多いご意見であり、学級担任等の協力も得ながらデータを入力する方法も考えてみてはいかがでしょうか。いずれにしても、身長や体重の測定値は成長曲線と肥満度曲線として評価することが重要であることをご理解いただき、各学校の状況等も考慮した上で、様々な方法を検討してみてください。

Q2  成長曲線と肥満度曲線を検討すると何がわかるのですか。

A2 個々の児童生徒について成長曲線と肥満度曲線を検討すると、以下のようなことがわかります。成長曲線と肥満度曲線から得られる情報はとても重要です。

  • 適正な成長の確認
  • 成人になって極端な低身長になる可能性のある児童生徒の早期発見
  • 病気が原因である肥満の早期発見
  • 単純性進行性肥満の早期発見
  • 病気が原因であるやせの早期発見

 

 また、成長曲線と肥満度曲線を検討することで、いじめや虐待を受けている児童生徒の発見にも役立つことがあります。

2 成長曲線と肥満度曲線の活用

Q1 正常な成長曲線と肥満度曲線、並びに異常な成長曲線と肥満度曲線はどのように判定するのですか。

A1 身長成長曲線は身長が高くても、低くても、基準線に沿って伸びていれば適正であり、基準線に対して上向き、あるいは下向きに伸びていれば異常と考えます。体重については肥満度曲線を重視します。肥満度曲線についても、基準線に比べて上向き、下向きにずれることが体重の成長障害を意味します。

Q2 成長曲線、肥満度曲線からどのような病気が具体的に考えられますか。

A2 健康診断マニュアルP25にある通り、2・4・5・7・9のグループに該当する場合は、以下のような病気の可能性が高いといわれています。

1)思春期早発症(2に該当)

 通常、小学校低学年の成長は、標準成長曲線に沿って成長します。その時期に身長の伸びが急に大きくなって、成長曲線が上向きになってきた場合は、思春期が早く始まった可能性があります。

 女子の乳房発育が7歳6か月未満(目安は小学校1・2年生)、男子の精巣発育が9歳未満(目安は小学校2・3年生)で起こった場合は、思春期早発症と考えられます。これらの二次性徴を把握するのは、専門医でないと難しい場合が多いのですが、成長曲線の身長の伸びで、早期に発見することが可能です。

 図1(b)のように未治療の思春期早発症は、多くは成人低身長になります。また、特に男子では、腫瘍が原因で発症することも有りますので、早期診断が重要です。

図1(a)思春期早発症女子

 

図1(b)成人低身長に終わった
未治療思春期早発症男子

 

 

2)成長ホルモン分泌不全性低身長症(3と5、また4に該当)

 低身長の中で、一番頻度の高い病気です。「身長の最新値が3パーセンタイル以下」から徐々に成長率が低下し、「身長の最新値が−2.5Zスコア以下」になった場合に注意します(図2(a))。初めから「身長の最新値が−2.5Zスコア以下」の場合もあります。

図2(a)成長ホルモン分泌不全性低身長症の男子

 

図2(b)頭蓋咽頭腫による器質性成長ホルモン分泌不全性低身長症

 

 

 「過去の身長の最大値に比べて最新値が1Zスコア以上小さい」場合には、脳腫瘍などによる器質性の成長ホルモン分泌不全性低身長症もあります。図2(b)は、頭蓋咽頭腫による成長ホルモン分泌不全性低身長症です。

3)後天性甲状腺機能低下症(4と7の重複)

 「過去の身長の最大値に比べて最新値が1Zスコア以上小さい」と「過去の肥満度の最小値に比べて最新値が20%以上大きい」が重なっている場合には、橋本病による後天性甲状腺機能低下症があります。図3(a)(b)が橋本病による後天性甲状腺機能低下症の成長曲線、肥満度曲線です。

図3(a)

 

図3(b)

 

 

4)SGA性低身長症(図4)(3と5に該当)

 生まれた時に小さく生まれ(SGA)、追いつき成長(catch-up growth)がなく低身長の場合にSGA性低身長症と診断されます。「身長の最新値が3パーセンタイル以下」や「身長の最新値が−2.5Zスコア以下」の場合です。

 「身長の最新値が−2.5Zスコア以下」の場合には、成長ホルモン治療が受けられる可能性があります。

図4 SGA性低身長症の女子

 

 

*SGAとは「Small‐for‐Gestational Age」の略で、お母さんのお腹の中にいる期間(在胎週数)に相当する標準身長・体重に比べて、小さく生まれることをいいます。

5)愛情遮断症候群(5または4に該当)

 虐待やネグレクトなど精神的・肉体的ストレスを親からうけると、睡眠時の生理的な成長ホルモンの分泌が抑制されて、著明な低身長になります。このような低身長は愛情遮断症候群と呼ばれます。食欲は亢進していることが多く、多くは低栄養ややせではありません。図5は愛情遮断症候群の1例です。

 入院して親から離すと成長が促進しますが、家に帰すと成長障害をきたすことが多く、図5の本児は最終的には施設に引き取られました。

図5a)愛情遮断症候群の女子

 

図5(b)愛情遮断症候群の女子の経過

 

 

6)肥満(7に該当)

 「肥満度の最新値が20%以上」は肥満ですが、「過去の肥満度の最小値に比べて最新値が20%以上大きい」場合は進行性肥満です。高度肥満はメタボリック・シンドロームや肥満症になっていることが多いので、ぜひ医学的な検査を受けることを勧めてください。

7)やせ(9に該当)

「肥満度の最新値が-20%以下」はやせですが、その中でも「肥満度が‐30%以下」と図6に示した「過去の肥満度の最大値に比べて最新値が20%以上小さい」場合は進行性やせで、成長期の児童生徒には異常な状態だと考えて、必ずその原因を明確にする必要があります。

図6 進行性やせ

 

 

Q3 学校医への報告はどのようにすればいいですか。

A3 成長曲線・肥満度曲線を作成した結果、医学的な対応が必要であると判定された児童生徒の成長曲線・肥満度曲線については、まず学校医へ相談し、病院受診の必要性等について助言を求めます。

 

Q4 医療機関につなげるために、保護者へどのような説明をすればいいのですか。

A4 学校医に報告した結果、医学的な対応が必要であると判断された児童生徒について、養護教諭は、対象児童生徒の保護者に、一度専門の医師の診察を受けてくださいと説明します。多くの場合、経過観察になると思いますが、中には早急に診断・治療しなければいけない病気も含まれていることを説明します。

Q5 専門医を受診するときに必要なことを教えてください。

A5 身長や体重の異常の診断には、生まれたときの情報(在胎週数、身長、体重など)や今までの身長や体重の経過が大切です。養護教諭は医療機関では以下の情報が必要であることをあらかじめ伝えてください。

①出生時・乳幼児期の経過が必要なので、母子健康手帳や保育所・幼稚園の成長の記録

②今までの大きな病気の有無と病名

③常用している(いた)薬の有無とその薬品名

④両親の身長や思春期の時期(一番身長が伸びた時期、母親の初経年齢)

⑤食習慣(食事内容、間食、摂食時刻)、運動の状況、睡眠時間

⑥学校で作成した成長曲線のコピーと実際の測定値(計測日も含む)

Q6 専門機関で最初に受ける検査項目と費用について教えてください。

A6 身長・体重に問題がある場合、専門機関では最初に表のような検査を行うことがあります。もし、保護者に聞かれたら以下のような検査があることを伝えてください。

成長障害(身長や体重の乱れ)は、原則保険診療の対象です。

①身長に問題がある場合

血液検査
(1回の採血)
一般検査 肝機能、腎機能、電解質(ナトリウム、カリウム、塩素、カルシウム、リン)、CRP
内分泌関係
(ホルモン)
ソマトメジンC(インスリン様成長因子-I):成長ホルモン不足の推測、甲状腺ホルモン、性腺刺激ホルモン・性ホルモン:思春期に関連
尿検査 一般検尿 蛋白、糖、血尿、白血球:腎臓の病気のチェック
レントゲン
検査
手のレントゲン 骨年齢:骨の成熟を判定する

②体重に問題がある場合

血液検査
(1回の採血)
原因の検査 甲状腺ホルモン:甲状腺機能低下症
副腎皮質ホルモン:クッシング症候群
電解質(カルシウム、リン):偽性副甲状腺機能低下症
合併症の検査
(主に肥満)
脂質(中性脂肪、総コレステロール等)、
肝機能:脂肪肝
ブドウ糖、インスリン、グルコヘモグロビン:糖尿病、尿酸:痛風
尿検査 一般検尿 尿糖

3 事後措置

Q1 保護者へどのように指導助言したらいいでしょうか。

A1 保護者への指導助言の要点は、大きく分けて2つあります。

① プライバシーについて

 児童生徒が成長曲線プログラム「子供の健康管理」によって①から⑨までのいずれかに分類された場合、医療機関の受診を勧める場合もありますが、児童生徒に成長障害があるかもしれないことを疑うのは、プライバシーにかかわることなので、これに対する配慮を十分に行う必要があります。

② 「成長曲線の異常=病気」とは限らない

 専門の医師に紹介された後、必ずしもすぐに治療へと進む訳ではなく、経過観察になる場合も多いです。成長曲線に異常があったからと言って、すぐに病気が見つかるという訳ではありません。異常があるかどうかは、専門的に診ていかないと判断が出来ないものですから、診断のためには医療機関を受診する必要があります。このため、異常を疑った場合、専門的な医療機関を受診することが必要となってくるわけです。

Q2 成長曲線に基づく児童生徒の健康管理に限界はありますか。

A2 すべての児童生徒が小学校から高等学校の時期にかけて思春期を経過します。女子は男子よりも思春期の発来と終了が2年ほど早いのです。思春期の成長の特徴は個人差が大きく、早熟型の子供もいますし、晩熟型の子供もいます。また、思春期の経過が速い(期間が短い)子供も、ゆっくり(期間が長い)の子供もいます。思春期の成長の仕方は多種多様で、このすべてを標準化することはできないのです。したがって、ある幅をもって評価する必要があり、それでも100%正常と異常を成長パターンだけで評価することはできません。

【操作編】

Q1 成長障害群の検索ができないのですが。

A1 基本データに入力漏れがないかもう一度確認してください。特に、計測年月日の入力がされておらず、プログラムが作動しないケースが多く見受けられます。もう一度、基本データが確実に入力されているか確認をお願いします。

 

Q2 Excel原票のデータ入力を漏れなく行ったのに、健康管理データの作成ができないのですが。

A2 Excel原票のデータの形式等に不備がある可能性があります。以下の場合が考えられますので、もう一度再確認をお願いします。

①生年月日のデータの形式が「ユーザー定義」になっている場合

 

②計測値の小数点がピリオドではなく、コンマになっている場合

 

③入力ミス・計測ミスがあった場合

 

 このQ&Aは、文部科学省補助金(健康教育振興事業補助金)により、公益財団法人日本学校保健会に設置した下記の委員会が編集作成しました。

成長曲線研修会・準備委員会委員名簿(平成28年度)(敬称略・50音順)

  加藤 則子 十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科 教授
  川村 千尋 埼玉県上尾市立今泉小学校 養護教諭
  神﨑 晋 鳥取大学医学部周産期・小児医学 教授
  田中 敏章 たなか成長クリニック 院長
  二位関 政美 埼玉県羽生市立新郷第一小学校 養護教諭
委員長 村田 光範 東京女子医科大学 名誉教授

なお、このQ&Aの作成にあたり、

岩崎信子 文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課健康教育調査官のご指導をいただきました。