- 熱傷・化学損傷・胸腹部外傷とその対応
- 順天堂大学医学部附属順天堂医院 救急科 大池 翼
渡邉 心
射場 敏明
1.皮膚熱傷 熱傷の「深さ」はその重症度によりⅠ度熱傷、Ⅱ度浅在性熱傷、Ⅱ度深達性熱傷、Ⅲ度熱傷に分類され、これらは肉眼的にある程度診断が可能である。Ⅰ度熱傷は発赤のみで痛みは比較的少なく、いわゆる「日焼け」程度の熱傷である。Ⅱ度浅在性熱傷は水疱を形成し痛みが強く水疱底の色が赤色である。一方Ⅱ度深達性熱傷は、水疱・びらんを形成し湿潤である点はⅡ度浅在性熱傷と同様であるが、水疱底の色が白色であるという違いがある。疼痛は知覚鈍麻するため逆に弱く、体毛を引っぱると容易に抜けてしまう。Ⅲ度熱傷は蒼白~褐色で、水疱形成がみられないため、一見軽症に見えることがある。しかし実際には皮膚は壊死しており、毛根の傷害により体毛は容易に抜け、さらに知覚神経も傷害されるため無痛である。
熱傷の「広さ」はⅡ度以上の熱傷が体表面積の何%存在しているのかで判断する。算出法はいくつか存在するが、手掌法と9の法則の2つが比較的簡便で記憶も容易である。手掌法とは患者本人の手掌手指全体の面積が体表面積の1%に相当するとして算出する方法で、9の法則は図1に基づいて算出する。(図1参照)
医療機関受診の必要性については、Ⅱ度以上の熱傷は受診させるのが妥当であろう。当日は水疱がなくⅠ度に見えても翌日以降に水疱を形成するⅡ度の場合もあるので、区別がつかない場合も医ておく必要がある。たとえば熱傷については、瘢痕や色素沈着が残るかどうかを判断し、病院受診の必要性を判断する必要がある。療機関を受診させたほうがよい。またⅢ度熱傷や体表面積の15%以上に及ぶ広範囲Ⅱ度熱傷、顔面・手足・会陰部の熱傷は3次医療機関へ救急搬送が妥当である。
熱傷受傷直後の応急手当は熱源との遮断を行い、局所を冷却することである。これは熱源から離れても熱エネルギーが真皮にとどまり組織を損傷し続けることを回避するためである。小範囲の熱傷例では流水(水道水)で10分程度の冷却を実施する。救急車を要請した場合も救急車が到着するまで冷却を続ける。医療機関搬送中は濡らしたガーゼ、なければ綺麗なタオルで保冷しておく。体表面積15%を超えるⅢ度熱傷や、体重に比して体表面積が大きい小児では長時間冷却による低体温に注意する。局所に氷や氷嚢を直接当てることは凍傷の可能性があるため行なわない方が良い。また、受傷直後の冷却では水疱を破らないようにすることも重要である。水疱を形成している場合は水疱に直接流水を当てずに健常部位から水を流すなどして愛護的な冷却を行う。
瘢痕や色素沈着が残るかどうかは真皮に熱傷が及んでいるかどうかで決定される。Ⅰ度熱傷は数日で表皮剥離し治癒する。Ⅱ度浅在性熱傷は治癒までに1 〜 2週間を要するが基本的に瘢痕は残さずに治癒する。一方Ⅱ度深達性熱傷以上の熱傷では真皮にまで熱傷が及んでいるため、なんらかの瘢痕が残ってしまうと考えなければならない。治癒までに約1ヶ月を要し、色素沈着や瘢痕を残す場合が多い。Ⅲ度熱傷になると通常自然治癒は期待できず、植皮手術を行うか、創周辺からの表皮の進展を待つことになる。
2.気道熱傷と意識障害を伴う熱傷 気道熱傷は外見上確認できないが嗄声、咽頭痛、顔面熱傷、鼻毛の焦げ・煤付着、呼吸音異常があれば気道熱傷を疑うべきである。気道熱傷は受傷直後の訴えがなくても数時間後に咽頭浮腫で窒息に至る可能性があるため注意が必要である。一方受傷早期から意識障害があれば頭部外傷、内因性疾患の合併、CO中毒、電撃傷を疑う。
気道熱傷、意識障害を伴う熱傷、重症度の鑑別が不能な熱傷は3次医療機関へ救急搬送すべきである。
3.化学損傷 学校で遭遇する率の高い化学損傷は主に酸・アルカリなどの腐食性物質によるものである。酸の作用機序は蛋白質の凝固壊死であり、アルカリは蛋白質の溶解壊死である。このため、アルカリによる損傷は酸によるものと比べて深部にいたる。またどちらの場合も医療機関の受診が必要である。
皮膚・眼球の化学損傷の場合の初期治療は原因物質に関わらず、起因物質の除去、汚染された衣類等の除去、大量の流水による洗浄である。できるだけ早く大量の水で流水洗浄を行い、起因物質の除去と希釈を行う。可能であれば搬送中も流水による洗浄を行う。洗浄時間は酸で1〜 2時間、アルカリでは数時間程度の持続洗浄が必要な場合もある。なお中和処置は行ってはならない。これは中和剤の量・濃度・使用範囲の特定が困難な上、中和した場合に反応熱が生じるためである。また、腐食性物質(酸・アルカリ)と揮発性物質(灯油・シンナー・ガソリン)の誤飲の際には催吐は行ってはならない。これは気道損傷や食道損傷を引き起こすためである。なお事故発生現場で原因物質を特定し、医療機関へ持参するとその後の治療に役立つ場合がある。
4.胸腹部外傷 胸腹部外傷の病態は多様であるが、意識レベル、血圧、脈拍、呼吸状態、体温等のバイタルサインが安定し持続する圧痛がない場合には経過観察でよいが、それ以外の場合は医療機関への搬送を検討する。また胸腹部外傷の中でも現場の初期治療が予後を大きく左右する病態として心臓震盪がある。
心臓震盪とは「心疾患がなく、胸壁や心臓に構造的損傷がないのに、胸部への非穿通性の衝撃により発生した突然の心停止」のことである。半数以上はスポーツ中の胸部への衝撃により発生している。野球のボールが最も多く、他にはソフトボール、サッカーボール、バスケットボール、拳等が挙げられる。スポーツ以外では遊びの中で肘や膝が当たった場合や親の体罰などでも発生している。最も起こしやすい衝撃部位は心臓の直上であるが、心窩部でも発症し得る。心臓震盪は健康な子どもに発症するので個人の危険因子を予測することは出来ない。しかし発症の原因は把握されているので胸部プロテクターの装着や、胸部への衝撃の危険性を認識することでその発症リスクを軽減することは可能である。
心臓震盪は心室細動による心停止であるため、電気的ショックによる徐細動が重要な治療方法である。心室細動の状態が3分間続くと脳の破壊が始まるといわれており、1分経過するごとに10%ずつ徐細動の成功率が低下する。そのため現場でのAED(自動体外式徐細動器)による徐細動処置が重要である。AEDは一般市民でも使用可能で、特別な講習を受けなくても実施できるので、学校やスポーツ施設に設置し、現場に居合わせた人物が速やかに使用できるように日頃から周知しておくことが重要である。
参考文献
救急医学 vol.34 NO.4( 377〜500)APRIL 2010 へるす出版
標準救急医学 第4版 医学書院 2009
輿水健治 救急救命 第18号 31-34 2007
救急レジデントマニュアル 第3版 医学書院 2008
救急医学 vol.34 NO.4( 377〜500)APRIL 2010 へるす出版
標準救急医学 第4版 医学書院 2009
輿水健治 救急救命 第18号 31-34 2007
救急レジデントマニュアル 第3版 医学書院 2008