心肺蘇生法ガイドライン記事の補足
監修:帝京大学国際研究所
帝京大学医学部救急医学講座
竹内 保男 先生
心肺蘇生法ガイドライン2010「小児の蘇生」では、1歳未満を乳児とし、1歳から思春期以前(目安としてはおよそ中学生までを含む)を小児と定義しています。
心肺蘇生法ガイドライン2010「小児の蘇生」では、「わが国における1歳以後の小児の死亡原因第1位は「不慮の事故」である。」として、「多くの不慮の事故は予防可能であり、これによる心肺停止を未然に防ぐことは重要である。事故は偶発的で避けられないもの(accident)ではなく、予防可能な傷害(injury)ととらえ、不慮の事故による傷害の予防(injury prevention)についての市民啓発が重要である。」と、記載されています。
今回のガイドラインの改訂では、特に胸骨圧迫の重要性が強調されています。しかし、胸骨圧迫のみの一次救命処置は、心停止の原因が心原性の場合には有効なのですが、呼吸停止に引き続いて心肺停止となる呼吸原性の心停止の場合には、人工呼吸が必要となってきます。大人の場合は心原性の心停止が多いのに比べ、小児・乳児は呼吸原性心停止であることが多いということで、ガイドライン2010では、
「市民救助者が小児に対して心肺蘇生(Cardio-pulmonary Resuscitation:CPR)を行う場合は成人と共通の一次救命処置(Basic Life Support:BLS)ガイドラインに従う。ただし、市民のうち小児にかかわることが多い人、すなわち保護者、保育士、幼稚園・小学校・中学校教職員、ライフセーバー、スポーツ指導者などは、小児BLS(Pediatric Basic Life Support:PBLS)ガイドラインを学ぶことを奨励する。医療従事者が小児を救助する場合はPBLSに従う。」と記載されています。
小児の蘇生に関する2005年のガイドラインからの変更点は下記のとおりです。
・CPR の実施を促すために、成人と同様にCPR は胸骨圧迫から開始する。一方、小児の心肺停止症例においては人工呼吸の有効性が明らかである。したがって、小児のCPR においては、準備ができしだい早急に人工呼吸を開始することを強調した。
・心停止を判断するための脈拍の確認は信頼性がないことが明らかになった。心停止か否かは、傷病者の反応と正常な呼吸の有無から判断する。
・自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator:AED)の使用に際し、エネルギー減衰機能付き小児用AED パッド(小児用パッド)の使用対象を乳児まで拡大した(わが国では薬事未承認)。
・現場の便宜を図るため、小児用パッドの使用年齢の上限を未就学児(およそ6 歳)までとした。
リンク:日本蘇生協議会HP http://jrc.umin.ac.jp/
JRC(日本語版)ガイドライン2010小児の蘇生
http://jrc.umin.ac.jp/pdf/G2010_03_PBLSPALS_110715.pdf
ガイドラインでは、「死戦期呼吸は心停止のサインであり『呼吸なし』と同じ扱いである。死戦期呼吸とは、しゃくりあげるような不規則な呼吸であり、心停止直後の傷病者ではしばしば認められる。」とあります。
では、具体的にはどのような呼吸なのでしょうか。
○下顎が動き、呼吸をしているように見える。
○呼吸をしているようにみえても、胸がほとんど隆起していない。
しかし、実際には熟練者でないと死戦期呼吸の判断は難しく、死戦期呼吸を「呼吸がまだあるもの」として心肺蘇生が遅れる場合が多々あるといいます。
そこで、
○肝心なことは、死戦期呼吸をどう判断するかではなく、通常の呼吸でないと認めたらすぐに心肺蘇生を開始する。
ということです。