3.その他
Q 先天的な腎臓疾患がなくても、成長の段階で発症する腎臓疾患にはどういうものがありますか。また、学校などで腎臓疾患が判明した子どもの予後について、注意点等を教えてください。
A. 大人に限らず子どもでも腎臓疾患は症状も発症状況も千差万別で、一概には答えられません。現在、先天性の腎疾患のある子どもは1〜2人/1万人、学校検尿で慢性腎疾患の発見率は3〜5人/1万人です。学校検尿では治療が可能な慢性腎炎が最も多く見つかります。先天性の腎疾患は多くは生後すぐに病院等でわかるようになりましたが、症状がない場合、3歳検尿でも4%程度、学校検尿で10%程度みつかります。現在3歳検尿でもっと見つかりやすくするための方法を検討しています。先天性の場合は尿が薄く、軽い蛋白尿は検査に引っかかりづらいためで、悪くなってみつかるケースもあります。先天性の腎疾患は手術をしてよくなるものとよくならないものがあります。尿路奇形では幼児のうちに手術が必要ですが、手術しないもので腎不全を起こすような疾患でもいまは薬で透析の時期を遅くすることができます。
徴候としては子どもの場合、成長障害を伴うことがありますが、腎臓疾患は基本的にサイレントな病気なので、症状が出てからでは治療が困難になります。なので、注意点としては、定期的に尿検査をして異常が見受けられれば検査をして早期発見、治療につなげるということが第一です。現代の医療では、慢性腎炎では早期発見、治療すれば80%以上の人が腎不全になるのを阻止できるようになっています。児童生徒は学校検尿がありますが、大学生や大人などは年1回の健診を受けるか、健診を受けないのであれば薬局やドラッグストアで尿検査ができる試験紙やテープが売られていますので、定期的に検査された方がいいでしょう。
Q 腎臓疾患の重篤な子どもに今まで接したことがないのですが、運動制限の他に食事制限が必要になることがあると聞いたことがあります。具体的に、給食等で対応するとしたらどのような配慮が必要になるでしょうか。
A. 腎臓疾患で食事制限が必要な子どもはほとんどいません。腎機能がかなり悪い人で、大人では1300万人程度いますが、子どもでは500人程度と日本では少人数なので、学校の先生で関わりになられる方は当然少ないかと思います。具体的な食事制限となりますと、蛋白のほかにリンや塩分などですが、現在では薬による対処療法が発達し、食事制限をしない方向ですすんでいます。
運動制限ですが、平成23年度に改訂された「学校検尿のすべて」では、これまでより緩和されるようになっています。医療技術の向上により慢性腎疾患の80%が治療できるようになり、医師の裁量によりますが、私の場合、0.5g以上蛋白が出る子どもには、体育では長時間体を動かすマラソンや競泳以外の運動は許可しています。ただし、ご家族と話し合って、国体に行ったり、バスケットの試合に出ることにしたこともあります。
Q 学校検尿のシステムについて教えてください。
A.日本学校保健会が全国の教育委員会、学校に調査した「平成25年度学校生活における健康管理に関する調査」では、学校検尿の調査も行われました。詳しくはこのウエブサイトの別ページに報告書が掲載されていますので、そちらをご覧いただくとして、今回の調査でわかったことで学校関係者にお願いしたいことがあります。
一つは各都道府県の教育委員会が中心となって市区町村や学校と連携を強め、都道府県にも腎臓検診委員会などをつくって都道府県の小児腎臓病学会の代表者と相談して進めてもらいたいということです。
平成23年度改訂の「学校検尿のすすめ」では、「はじめに」で、「今後、各都道府県単位で学校医や教育委員会、小児腎臓病専門医などによる腎臓病対策委員会を設立し、各市町村と一体となって活動することが望ましい」としています。しかし、今回の調査では、各都道府県でも市区町村によって学校検尿の実施方法や異常者の判定はまちまちで統一されていませんでした。同じ県内でも2回目の検尿を実施していないところもあれば、必要以上の項目まで検査しているところもあったり、「学校検尿のすすめ」が改訂されたことについても質問したところ、都道府県教育委員会はある程度改訂内容を理解されていますが、市区町村においては3割以上も改訂されたことすら知っていませんでした。
二つ目は、検尿陽性者に対しての指導です。学校の調査では、学校生活管理指導表を使用することは把握されていますが、実際には使っていないところが半数に上っていました。学校生活管理表は主治医に記入してもらうのに実費がかかるなど課題がありますが、学校生活管理指導表は子どもの健康に関わる重要な連携手段であり、適切に活用していただきたいと思います。また、精密検査ですが、受診をすすめている学校はほとんどなのですが、受けたかどうか確認をとっているところは8割程度です。ただし、管理指導表を使用しない場合の把握方法がどうされているかが問題と思います。こちらも100%になるよう都道府県教育委員会が中心となって指導していただければと思っています。