- 児童生徒の心臓性突然死とAED
- 三重大学大学院医学系研究科 小児科学 准教授 三谷 義英
児童生徒の心臓性突然死の現状と学校生活 1 学校管理下の突然死の実数と発症率の推移とAED
これまでの心臓系突然死例の臨床的特徴に関して、日本スポーツ振興センターによる統計資料によれば、学校管理下の突然死の実数は、1980 年頃は、小中高生共に年間40 名程度であったが、1990 年代には徐々に低下し、小中高生共に年間20-30 名程度まで低下した。ところが、生徒数10万人対の死亡率で検討すると、突然死、心臓系突然死共に2000 年頃まで、殆ど変化のない事が示され、実数の減少は小児人口の減少と関連するとされる。ところが、最近の死亡率の変化(右図)では、2003 年頃から低下傾向が認められ、2003年に医師の指示なく救命救急士によるAED の使用が認可され、2004 年7月には一般市民のAEDの使用が認可された事が特記される。しかし、AED 使用と学校管理下の児童生徒の心臓系突然死発症率の低下との因果関係は不明な点もあり、医療側と学校側の協力した検討が重要である。
2 学校管理下の突然死の特徴
学年別学校管理下の突然死数は、小学校4年生頃から上昇し、中学、高校と増加する。男女比では、小中学校では男児が60%、高校では77% と男児に多い事が特徴である。また発生状況では、運動前後が全体の約2/3を占め、発症時間帯では、小中高生共に午前中に多い傾向が認められる。運動種目別の発症件数では、ランニング、球技、歩行、水泳などが多く、一般には運動強度が強い程件数は多いとされるが、安静時も残りの1/3を占める。
3 突然死の可能性のある小児心疾患
児童生徒の突然死の原因は、先天性心疾患、後天性心疾患、不整脈疾患の3つに分類される。先天性心疾患では、術後心疾患、冠動脈起始異常、大動脈狭窄があげられる。後天性心疾患では、肥大型心筋症、拡張型心筋症、急性心筋炎、稀には拘束型心筋症、左室緻密化障害、川崎病後冠動脈障害、マルファン症候群、特発性肺動脈性肺高血圧がある。不整脈疾患では、QT 延長症候群、原因不明の心室細動、WPW 症候群などがあげられる。
注意すべきは、各疾患において学校心電図検診で発見する事が容易でない例があり、また診断された例でも突然死を予知しがたい場合も知られ、発症例への適切な対応が重要となる。
AED の普及状況と学校保健へのインパクト 1 AED の普及状況
AED は、医療機関、消防機関、学校・公共施設等の一般施設などに配置される。2004 年の非医療従事者の使用が認可された後に徐々に増加し、2008 年現在では全国で20 万台に及ぶとされる。この事に関連して、厚生労働省の報告によれば、2008 年3月末の時点で、AED の保有率は小学校72.0%、中学校89.8% にも達している。この数字は、欧米諸外国に比べ高い値であり、日本に特有とされる学校心電図検診と共に、日本の学校での心臓性突然死への関心の高さがうかがわれる。
2 AED の突然の心停止への効果
よく引用されるラスベガスのカジノの検討で、非救急隊員である一般市民による除細動により、3分以内であれば生存退院率が74%、3分以上であれば49% と報告され、目撃されない心停止の場合20% である事と比べて有意に高く、一般市民によるAED の有効性が示唆される。また日本においては、総務省消防庁の救急蘇生統計によれば、2008 年には目撃された心原性心停止の市民により除細動された例の1か月時生存率が43%と報告され、AED 非使用時の8%に比較して有意に高く、その有効性が示される。また119 番通報から救急隊が現場で心肺蘇生を開始するまでに9分の時間経過があると報告され、生存退院率の向上に繋がる早期の蘇生には、一般市民の参加が不可欠であると言える。従って、学校現場での非医療従事者である教員の役割は極めて重要と考えられる。
3 新しい救急蘇生ガイドラインの学校保健へのインパクト
一般市民による胸骨圧迫、人工呼吸を用いた心肺蘇生、AED を用いた除細動に関して、国際的な組織である国際蘇生連絡委員会の統括の下で、蘇生ガイドラインが作成され、日本に於いても、国際ガイドライン2005 に引き続き2010 が発表される予定である。これらには、成人、小児、新生児に分かれて心肺蘇生法が示され、一般市民への一次救命処置の普及への努力がなされている。現在、学校での心肺蘇生、AED を用いた除細動による救命例が報告されつつあり、今後学校現場での突然の心停止の予後の改善が期待される。 上記の状況から、地域の救急隊員による一次救命処置の実地訓練が多くの機会でなされる様になり、学校職員の一層の参加が強く勧められる。今後、AED を用いた新しい心肺蘇生ガイドラインに基づく学校での蘇生ガイドライン、学校の教職員への普及プログラムが作成される事が、さらなる学校保健の向上につながると考えられる。