成長曲線〜学校での成長曲線の活用〜
 
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座談会出席者

コーディネーター/
東京大学名誉教授 衞藤 隆先生
帝京大学医学部救急医学講座
主任教授 坂本 哲也先生
群馬県立高崎東高等学校
教諭 木村 公則先生
 
さいたま市教育委員会
指導主事 辻野 智香先生
筑波大学附属中学校
養護教諭 道幸 玲奈先生

はじめに―AED普及とのかかわり―

【衞藤】今回の特集では、AED(注1)が必要になった場合に備えてということをテーマに、学校現場でAEDがどのように使われているかということなど、事例を紹介していただきながら、今後、もしそういう場面に遭遇したらきちんと使っていただけるようにAED使用の普及を目指すという観点ですすめてまいりたいと思います。
まず、坂本先生から順番に自己紹介を兼ねてAED普及とのかかわりについてお話しをお願いいたします。

注1)AEDとは、自動体外式除細動器の英語名の略称で、突然心臓が正常に拍動できなくなった心停止状態の心臓に対して、電気ショックを行い、心臓を正常なリズムに戻すための医療機器。

【坂本】私は現在、帝京大学医学部の救急部門で、ここでは日常的に重症救急患者さんの診療を中心に、特に院外心停止の患者さんを年間400名ほど診ております。それ以外にも先月から日本臨床救急医学会で代表理事を務めさせていただいており、そこでは学校におけるBLS(注2)普及の委員会があり、多くの方にご協力をいただきながら厚生労働省、文部科学省等にも提言を行っています。今回ご出席されているさいたま市のASUKAモデルでも学会から石見拓先生が参画され、非常に頑張っていただいております。ほかにも心肺蘇生やAEDのガイドラインを作成する立場では日本救急医療財団の心肺蘇生法委員会の委員長をしておりまして、特に一般の市民の方が行う救急蘇生法の指針というものの作成にあたっておりますので、現場の臨床だけではなく普及・啓発というところにも深く係わっております。学校現場における心肺蘇生・AEDの普及は日本でも強く取り組んでいるところですが、世界でも今、どの年齢層に教えるべきかということについて、やはり学校で教えるべきだろうということが主流になってきていますので、そういう面でもぜひご協力できればと思って参りました。よろしくお願いいたします。

注2)BLSとは、Basic Life Support(一次救命処置)の略称。 一次救命処置とは 、急に倒れたり、窒息を起こした人に対して、その場に居合わせた人が、救急隊や医師に引継ぐまでの間に行う応急手当のこと。

【木村】群馬県立高崎東高校の木村と申します。本校では2年前(平成25年)の体育の授業ですが、11月にあるマラソン大会の練習中に生徒が倒れ、AEDの指示に従って電気ショックを2回行って何とか蘇生したということがありました。本日はその体験談をということで出席させていただきました。よろしくお願いいたします。

【辻野】さいたま市教育委員会学校教育部健康教育課の辻野と申します。本市では平成23年9月に当時小学校6年生の桐田明日香さんが放課後の駅伝課外練習中、1000m走ってゴールしたあとに突然倒れ、不幸にも翌日お亡くなりになるという事故があり、それを教訓に教職員の研修用のテキストとしてASUKAモデルを作成いたしました。本日はそのお話ができればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【道幸】筑波大学附属中学校で養護教諭をしております道幸と申します。私は今までの経験の中では、幸いなことにエピペンやAEDといった緊急的に命に関わるものを使う経験がありません。たくさんのお子さんを預かって学校生活を送っている日々の中でいつ、そのような事故が発生するかというのは誰にもわからないことですので、そうなった時に一番後悔のない動きができればという思いから先生方や大学の先生のお話を伺えたらと思います。どうぞよろしくお願いします。

【衞藤】それでは早速、AEDが必要になった場合に備えてというテーマで話を進めていきたいと思います。まずは一次救命処置や心肺蘇生なども含めてAEDの必要性を我が国において、どういうふうに普及したのかというあたりからお話をいただけますでしょうか。

【坂本】わが国で、一般の市民がAEDを使えるようになって10年が過ぎました。それまでは電気ショックというのは医師のみが行える治療だったわけですが、平成16年の7月1日に厚生労働省から、非医療従事者がAEDを使用して電気ショックを行っても医師法には反しないという通知が出ました。そしてこれまでの間に、日本でも既に60万台ほどのAEDが販売され、世界の中でも米国に次いで2番目に多い普及国になっている状況です。ここで、AEDについて簡単にご説明します。人間の心臓が突然止まってしまうという心臓突然死はいくつかの原因で起こり得るのですが、その時には心臓がいきなりぴたっと止まるわけではなく、心室細動という不整脈、いわゆる心臓が痙攣をしているような状態がしばらく続いてから完全に止まってしまうという経過をとる場合が7、8割を占めていると言われています。心室細動で震えている時というのは、心臓の筋肉がばらばらに収縮をしていて、心臓全体としては、統一した血液を送り出す機能がなくなっているのですが、筋肉自体はまだ生きていますので、それがまた同時に収縮するようになれば血液が送り出せる可能性があります。そのための号令をかける、心臓の筋肉に喝を入れるというか、いったん心臓の筋肉の動きを止めて、また筋肉全体が同時に動くようにしてあげる機械、これが電気ショックの原理になります。そしてAEDというのは電気ショックを与えるだけではなくて心電図の分析を自動的に行い、電気ショックが有効な状態なのか、そうでないかということまで判断をしてくれるので、必要な時だけ電気ショックを行う指示を与えてくれます。これにより安全性が高まったということで、多くの一般の市民の方に使っていただけるようになりました。AEDにどのくらいの効果があるかについて、心臓が止まった人が社会復帰に至る割合で考えると、救急隊が現場に到着してから電気ショックをかけた場合では、社会復帰率は18%程度、だいたい6人に1人が社会復帰できているのですが、5人は残念ながら命を助けられなかったり、あるいは寝たきりになったりしています。それに対して、現場に救急隊が来るまでに一般の市民の方が電気ショックをかけた場合はだいたい36%、すなわち3人に1人、約2倍にまで引き上げられるという効果があります。さきほども申し上げたようにAEDの販売台数は60万台と増えてきているので、台数の増加に伴って一般の市民の方が電気ショックをかける数も増えてきており、年に1,500人を超えるぐらいの方に電気ショックが行われていることになります。ただ、本来電気ショックが必要と思われる全ての方のうちで何%ぐらいかということになると、いろんな推計がありますが、例えば心臓そのものの病気が原因の方の全体から見るとまだ3%に過ぎず、また救急隊が現場に到着してから電気ショックが行われた数から見ても、18%ぐらいになります。なので、まだまだ残り8割ぐらいの方は市民によるAED使用の恩恵を受けていないということになり、これを高めていくことは1人でも多くの人を助けるために非常に重要なことなのです。そのためにはもちろん、AEDの設置台数をもっと増やすということも必要なのですが、今あるAEDがより有効に使えるためにはどうしたらいいのか、例えば学校内でもどのような場所に設置すればよいか、本当に使いやすい状態になっているのかというところが非常に重要で、本日はその話をぜひさせていただければと思います。

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