学校での事例
【衞藤】それでは先ほど少しだけ実際の事例をご紹介いただきましたが、どういう機会に使用され、どういう御心配があり、どういう結果を生んだかなど、そういうことも含めて木村先生からご説明いただけますでしょうか。
【木村】先ほども少し触れましたが11月にあるマラソン大会に向けて体育の時間に約10時間程度、持久走の授業があり、校庭を男子は1,500m、女子は1,000mを走ります。平成25年10月19日の土曜日、時間は午前中、高校3年生、男女混合の3クラスでの1回目の授業でした。そのクラスは幸い私1人でなくチーム・ティーチングということでA・B・Cに分けて私がAだったのですけれど3人の教員でその体育の授業を行っていました。Aを4グループに分けて3つ目のグループだったのですが、1周250mのトラックで6周、私がゴールのところでストップウォッチで計測をしており、5周を走り終えラスト1周だぞと言ったのを私ははっきり覚えていて、その生徒も「はい」なんてゴールのところで言いながらラスト1周、その男子は本当に一生懸命走る真面目な生徒なんです。あともう少し、ゴールまで残り10m手前ぐらいでしたが、右にふらふらと揺れ、そのままバタンと仰向けで倒れました。これは大変だとすぐ駆け寄りながらてんかんか何かなのではと、私もまさか心臓が停止するとは思っていなかったのですが、駆け寄ると、かなり苦しそうに唸るばかりで名前をしきりに呼んでも応答もなく、その後、ASUKAモデルにも載っていた死戦期呼吸というのでしょうか。それはあとから知りましたが、でも、明らかにこれは呼吸ではないな、息も止まっている、心臓も止まっている状態だと私は思ったので、数人駆け寄ってきた生徒たちにすぐAEDを持ってきてくれということで私は野球部の顧問なのですがその時の野球部のキャプテンが、距離で言えば30mぐらいのところに体育館があるので幸い、その彼がAEDを持ってきてくれるまでの間に私は胸骨圧迫。応急普及員というのに地元の消防署が主催している講習会に私も2回ほど参加させてもらっていて、1週間ずっと訓練を自分自身も受けていたので。ただ実際に自分がやるとは思わなかったのでもう無我夢中で。その時に肋骨が折れてもいいからと講習会で聞いていた言葉が咄嗟に頭の中を過ったものですからとにかく胸骨圧迫を。自分でもマニュアル通り1、2、3、4、5と言いながら。生徒の名前を呼びながら。そのうちにAEDが到着しましたのですが、すぐさまパッドをどっちに貼ったかなども記憶にないくらいな状態でした。AEDから電気ショックが必要というアナウンスがあった時には少し冷静になれた自分もいて、電気ショックを1回、ボンと、その流れで再度胸骨圧迫する。それでも変わらなかったのです。まだ、うーという状態で。まさか2回目をやるとは自分は知らなかったのですが、心電図を測り、電気ショックが必要ですということで、充電がはじまり、再び離れてくださいと言われたので、2回も押していいのかなと正直迷ったのですけれど、2回目をボンとやりまして、またすぐさま胸骨圧迫。周りの先生方も頑張れ、頑張れなんて励ましながらとにかく無我夢中で、どのくらい心肺蘇生をやっていたのか分からないのですけれど、そのうちにうっと息が入ったような感じがしたんです。名前を連呼していたら動きがあったので、多分生き返ったんだろうなと思いながら頑張れ頑張れと励ましていたところに救急車が到着しまして、あとから聞いたら救急車を呼んで到着するまで8分程度だと。30分ぐらい胸を押していた感覚だったのですが。救急車が到着し、救急隊の方にAEDを2回行ったこと、確かではないけれど息が入ったような感じがしたことを言い、あとは救急隊員にお任せをして、すぐさま担任が付き添って救急車に乗って搬送されました。救急車の中で息を吹き返したということだったので保護者に連絡し、保護者の方は直接病院へという一連の流れでした。
【衞藤】素晴らしい。
【木村】でも、あとから思うと、講習会で実際にそういう訓練を受けていたので自然と、しかも、その時に肋骨が折れてもいいからとにかくやってくださいというのがやはり教育というのでしょうか、それがあったので胸を押せたというのが非常にありました。たまたま3人教員がいたので、心強さというのも無意識のうちにあったのかもしれないですし、1人だったらどうだったかなというのもありますが。
【衞藤】坂本先生は今のお話を聞かれて。いかがでしょうか。
【坂本】もちろん救命できたという結果も素晴らしいのですが、心停止だと思って、勇気を持って判断をして胸骨圧迫とAEDを実施していただいたというのは、なかなかそこが乗り越えられないところでもあるのです。またAEDによる2度目の電気ショックについては、なかなか講習ではそこまで教えられないので戸惑いがあったかもしれません。それもやっていただいている、まさにそのことが1人の若い命を救ったんだなと思いました。今のお話の中でも心臓が止まったときに死戦期呼吸もありますし、いきなりぐったりしないで痙攣のように体を硬直させているという状態もあり、心臓が止まった直後にはそういうふうに見える状態が起こるんだということを我々はもっと教えなければいけないのかなと、非常にいい教訓になるお話でもありました。ありがとうございます。
【衞藤】AEDのAはAutomatedですから自動的に判断してくれるということで、2度目が必要だというのも機械が音声で言ってくれたわけですね。
【木村】素晴らしいです、AEDは。