成長曲線〜学校での成長曲線の活用〜
 
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AEDの普及啓発

【衞藤】実際はどのぐらいAEDが使われたか、いろいろな形で評価されていると思いますが、さいたま市ではどう考えていらっしゃいますか。

【辻野】市内の学校に設置してあるAEDは市で借りて学校に配置していますので、AEDを使った事例があるとAEDの使用報告があがってきます。そこでAEDがどのくらい使われたか、どういう状況だったのかというのは把握をするようになっています。幸いなことにまだ不幸な事例はありません。ただAEDの使用は確実に事故後の方が増えているということはあります。

【衞藤】使用回数の把握はしているのですね。

【辻野】はい、通電となりますと、教職員ですとか、校舎の近くで倒れていた一般の方を見つけて、生徒が学校に取りに行ったという事例はあります。

【衞藤】学校では比較的普及していますが、地域社会ではまだまだという話もあるようですが、そのへんはいかがでしょうか。

【坂本】先ほど話がありましたように日本の学校にはかなりAEDが設置されるようになったのですが、使われる頻度から言うと、例えば、駅やあるいは高齢者が集まる施設などの方が頻度としては高いので、学校に設置されたAED 1個あたりの直接の救命効果が高いというわけではないと思います。ただ、それとは別に二つの点で非常に重要で、将来のある子供を救うということの重要性が一つと、もう一つは先ほどもありましたように、子供たちへの心肺蘇生・AEDの教育、まず人の命を助けることの大切さということを教えるための一つの契機となるということと、学校にAEDがあることによって子供がそれを学んで、そのあと50年、60年とその子が一生に渡って知識を持ち続けるわけですし、子供に教えたことが家庭で話題になれば家庭というコミュニティにその知識が持ち帰られていきますので、非常に伝搬力がある。特に現在、都市部では地域のコミュニティというのがなかなかつくられにくい状況ですが、学校から発信して家庭やPTAなどへ口コミで情報を伝達していただくということも非常に重要だと思います。AEDで実際に助かっている人は、消防庁の方で統計を取っていますので統計上の数値としては出ていますし、一般市民の方が電気ショックをかけて社会復帰にまで至った方の数は、全国で毎年300人以上の数になっているのではと思います。

【衞藤】この先さらにAEDが必要とされる時に迅速に的確に使用されるということが普及していくためには、ほかにどんなことが考えられるのでしょうか。木村先生、いかがでしょう。

【木村】今の3年生はあの事件から何となく本当に起こるんだというところがわかっているような感じはしますが、私もあれから体育の時間にもちろん健康チェックもそうですけれど、暑い日の体育やマラソンの授業などの前には、以前に本校でこういうことがあったということを下級生の生徒には伝えているのですが、その重要性というのをいかに教えていくか、生徒たちに伝えていくかというのが課題だなということがあります。そういった中で事件から毎年、保健の授業とは別に部活動のキャプテンやマネージャーを集めて、さらにAEDの押し方はもちろん誰に伝えて、どういうふうに、さっきの先生のお話しではないですけれどそれを実践して、部活中にもし倒れた場合には誰がAEDを持ってきて、誰が押すのか、そういったシミュレーションを部活動単位で顧問の先生を通じて、トレーニングというかミーティングは必ず行うようにはしているのですが、ただ部活動だけではなく、教室で倒れた時には誰が呼びに行ってというところも考えると学校行事の中で一つそういったロングホームルームか何かで、保健の授業だけではなく1時間や2時間ぐらいは総合的な学習などで必要なのかなと思ったり、いかにどうやって生徒たちが命の大切さを理解させ、人の命を救うことの重要性というのを感じて動いてくれるか。それを意識して、何かに取り組んでくれるかというところが保健の授業だけでは足りないような感じもいたします。

【坂本】おっしゃる通りで、児童生徒だけに限らず心肺蘇生とかAEDとかに対して、大多数の方はやはり無関心なのです。重要性や必要性を感じた人はそうした講習会に来てもらったり、使い方を勉強してくれますが、そうでない方にいかに興味、あるいはその必要性を感じていただくかというところのハードルがものすごく大きい。これは自分に関係ないんだ、縁のないことだ、そんなことは自分の一生にあたることはまずないだろうというような人に、これは自分の身にも起こることで、自分にとっても本当はかけがえのない友達や家族がもしかしたらそうなるかもしれない、そのために必要なんだということをリアリティを持って、わずかでも「AEDって何だろう」と思わせるような、自分も勉強しなければいけないと、興味を少しでも持ってもらうところまでのハードルをいかに越えてもらうかというところが一番の課題なんだろうと思います。

【道幸】木村先生は2回ほど講習を受けに行ったことがあるとおっしゃっていましたが、最初に受けるきっかけというのはどんなことでしたか。

【木村】学校の中で保健主事という立場の仕事をしていたものですから学校からこういった出張申請が来ていると、誰か学校で1人出さなければいけないということで私が保健を担当していたもので私のところにきて、もう10年以上前でしたか。体育でいろいろ子供たちを教えているなかで、そのスキルは必要だと、ぴんとはきていなかったですが、考えたので積極的に行ってみようと思い、初めて参加させてもらいました。ただ、実際に参加して、初めて胸骨圧迫の練習をしましたし、何となく自信がつくというのでしょうか、実際にはかなり動揺しましたが、その講習を受けてから人の命を助けるということの大切さと少々自信がついたというような感じは自分自身にありました。

【坂本】実際に自分で感じたことはとても必要だと思います。それからもう一つ、さっきの明日香ちゃんのことも非常に残念で不幸なことではありますけれど、逆にそうやって亡くなってしまった方たちにとってもまた同じことが繰り返されればもっと悔しいだろうと思えば、そういうことが本当にこの世の中で起きているんだという現実を伝えて、こういうことは防がないといけないということをリアリティを持って啓発していかないといけないのではないかと思います。

【道幸】何かの研修会で明日香ちゃんの動画を見させていただいた時は気持ちがきゅっとなりました。

【木村】私も何回も見ましたけど本当にあれは胸詰まる、これは何かしなくてはいけないなと思いました。DVDを保健の授業でも見せようかなと思ったり。

【坂本】例えば交通事故の予防については、運転免許の更新のときに、事故を起こしてこうなったというビデオを見せられますけれど、それとはだいぶ性質が違うとしても、リアリティを感じてもらうということは特に大事なんではないかなと思います。

【木村】先ほど本校の事例で死戦期呼吸の話をしましたが、あの動画を初めて見た時、まさにこんな感じだったとちょっとどきっとしました。生徒たちもよりリアルに考えられると思います。

【辻野】教職員の研修の時にも最初にあのDVDをお見せしたり、市の職員なので市の公民館ですとかスポーツ推進室なんかで学校外でいろんなスポーツを勧めてくださっているリーダーの方の研修等にも呼ばれて行きますが、最初の映像を見ると、また胸骨圧迫と人工呼吸の練習かみたいな気持ちで来られた方が、がらりと気持ちが変わって、何かしなければという気持ちになってくださいます。今回、作成したDVDの中には心臓財団(注5)や大阪ライフサポート協会(注6)のご協力を頂いています。動画はYou Tube(注7)でも見られます。

注5)公益財団法人日本心臓財団。循環器病を克服するために研究の助成、予防啓発さらに心臓病に関するメールでの相談などを行っている団体。昭和45年設立、平成24年公益財団法人となる。

注6)特定非営利活動法人大阪ライフサポート協会。肺蘇生法の普及・啓発活動を通じて、心臓突然死患者をはじめとした救急処置を必要とする傷病者の救命率、さらには救命後の生活の質(quality of life)を向上させることを目的に平成17年に設立された団体。

注7)You Tube「命の記録MOVIE〜ASUKAモデル〜」外部リンク

【道幸】生徒にしろ教職員にしろ、そういった研修や授業を行うに当たり、動機付けが大切になってくると思うのですが、心に響く動画などを流すなども一つの手段だと思っています。こういう素晴らしいものがあったら使わせていただきたいなと思うのですが、例えば、教員の研修で、さきほどのDVDなど提供していただけるといいのですが。

【辻野】さいたま市のホームページを開き「子育て・教育」をクリックし、次に「教育」をクリックし、ASUKAモデルというとこをクリックすると、そこにこのテキストですとかテキストを解説した解説本やパワーポイント資料があります。併せてお貸しできるように借用申請の要項申請書類等がアップできましたので、そちらにアクセスしていただければ1ヶ月ほどの期間を上限に郵送でお貸しするといったことを始めました。(注8)

注8)さいたま市HP「体育活動時等における事故対応テキスト〜ASUKAモデル〜」DVD貸出外部リンク

【道幸】ぜひ見させてください。

【木村】先ほど年間に300人ほどAEDで助かっているということですけども、毎日に換算するとどのぐらいの方が倒れているのでしょうか。

【坂本】病院外で心臓が止まって搬送されている方が年間約10万人ですから、1日にするとだいたい300人になります。

【木村】1日では日本のどこかで300人が倒れているということですか。

【坂本】東京だけでも30人ぐらいですから、1時間に1人よりちょっと多いぐらいでしょうか。

【衞藤】救急車が到着する平均の時間というと。

【坂本】以前は7分といっていましたが、だんだん延びていて、今は8分を超えています。

【衞藤】その8分を無駄にはできない。

【坂本】平均8分の間、何もせずに黙って見ていれば、取り返しのない8分になってしまいます。

【辻野】5分遅れたら生存率は半分になるのですよね。

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