第6回「アレルギー疾患の対応と学校生活管理指導表」
座談会出席者
財団法人日本学校保健会 事務局次長 並木 茂夫 先生
コーディネーター/
財団法人日本学校保健会
事務局次長 並木 茂夫
千葉県千葉市立登戸小学校 養護教諭 井上 千津子 先生
千葉県千葉市立登戸小学校
養護教諭 井上 千津子先生
長野県富士見町立富士見中学校 養護教諭 菅沼 八重子 先生
長野県富士見町立富士見中学校
養護教諭 菅沼 八重子先生
東京都立広尾高等学校 養護教諭 沢田 真喜子 先生
東京都立広尾高等学校
養護教諭 沢田 真喜子先生

これまでの体験から

並木本日の座談会は「アレルギー疾患の対応と学校生活管理指導表」というテーマでお話をいただきます。
 では、最初にアレルギー疾患のある子どもについてこれまでどう対応されてきたか、体験を通じた事例などを伺えればと思います。まず、井上先生からお願いいたします。

井上牛乳が一滴ついたら重症化するというお子さんをお預かりしたことがあります。それまで食物アレルギーの子どもたちは何人かいましたが、そこまで重症の子どもはいませんでした。その子は教室内でパンの粉が舞っていても眼がはれてしまったり、呼吸が苦しくなったりするのです。
 入学前から保護者面談などの対応をしたのは、管理職、栄養士、養護教諭です。担任が決まった時点で担任も交え、さらに全職員で対応方法を検討しました。たとえば教室で給食を食べるとパンの粉が舞ったときなど午後の授業が受けられません。そこでランチルームをそのクラス専用にして、食べた後も服に付いたパンくずをはらったり、手を洗ったり、うがいハミガキをして、アレルゲンを教室にもっていかないよう注意しました。必ずその子には栄養士や少人数担当の教師など担任をもっていない教師が交代で付き添いました。牛乳のストローを抜くときにはねるといけないので刺したまま片づけるとか、白衣はランチルームに置く等々、細かい点にも注意しました。その他、給食後に嘔吐した子どもがいたとき、その横にいても危ないなど様々なことを全職員で話し合って、毎日連絡を取り合うようにしました。

並木その児童の給食は除去食ですか?

井上お弁当持参でしたので、給食を食べてアナフィラキシーを起こす心配はありませんでした。

並木保護者から除去食など給食の相談はなかったのでしょうか。

井上なかったです。子どもが非常に重症でしたので、気をつけていても万一なにかあるといけないからということでした。

並木そうですか。たしかに作る方もそれなりの配慮が必要ですね。

 

並木では次に菅沼先生、よろしくお願いします。

菅沼ハチ毒アナフィラキシーの生徒についてです。入学時に保護者からの申し出があり、併せて保健調査票にも記載があり把握しました。そこで保健指導で何をするかという目標を決め、私自身が理解を深めるとともに、適切に対応ができるようにすることを考えました。 面談を本人、保護者、担任、養護教諭、管理職で行いました。本人がアナフィラキシーについてどれくらい認識しているのかを確認しました。緊急時に出る症状、対応、緊急連絡先の確認をしました。アドレナリン自己注射薬を学校に持ってきて生活をするため、保管をどうするのかについての確認をしました。担任の指導は、緊急時に対応ができるようにすることで、体育や野外活動時の注意です。もし刺された場合は、だれでもいいから周囲の人にすぐ知らせることとしました。アドレナリン自己注射薬について担任に定期的に保管している場所を知らせる。担任からも保管について確認する。学校長は教職員への周知を職員会で行いました。共通理解を深める内容については養護教諭が行いました。アナフィラキシーでアドレナリン自己注射薬を携帯していること。ショックを起こした場合の対応は誰にでもできること。体育や野外活動では、特に注意が必要であることでした。全教職員で研修会を実施しました。講師は小児科の医師。内容はアナフィラキシーについてと自己注射の使用方法です。毎日、特に夏の時期は校内に蜂の巣がないか、安全点検をしています。

並木蜂の巣の安全点検、大変ですね。

 

並木では、沢田先生が経験された、アレルギーをお持ちの生徒さんのお話をいただければと思います。

沢田本校では、生徒の自己管理がおおむね出来ていると感じます。入学直後に確認のための面談を行いますが、生徒は自分の状態をだいたいは説明できます。喘息の場合は、使用している内服薬がわかる生徒とわからない生徒がいますが、基本的にどんな薬を使用しているかということは多くの生徒がよくわかっています。
 エピペン(注:アドレナリン自己注射薬の商品名)を持っている生徒も、過去のアナフィラキシーについて、こんな症状が出てだんだん悪くなった、この時は良かったなど、経過も表現できていると思います。ただ逆に、成長して軽くなったと自己判断し、あまり病院を受診しなくなってしまう生徒もいて、これは気管支喘息(以下ぜん息)の生徒に多いと感じます。ぜん息様の咳で頻繁に保健室を利用した場合、受診するよう勧めるのですが、受診せず繰り返すこともあります。管理指導表を出し必要に応じて体育を見学して欲しいのですが、体育を休みたくない生徒は、出さない傾向にあります。
 給食は定時制等の高校で実施していますが、生徒が事前に献立表を確認しアレルギーのある場合は、食べないようにする等、基本的には自己管理となっています。
 修学旅行等の宿泊行事の場合は、旅行中の食事の献立表を保護者と本人に確認してもらい、別メニューを頼むのか、食べられるものだけを摂取するようにするのか、調整します。以前、重篤なアレルギーをもつ生徒の3年時のみ関わったことがあるのですが、その生徒の過去の資料を見ると、入学直後は学校が対応を検討するために、とても慎重に頻繁に保護者や主治医と連絡を取り合っていたようです。でも保護者からすると、小学校・中学校と積み重ねてきたものを無視されているようなお気持ちになったのか、本人が自己管理できるから学校は見守る程度でいて欲しいといった学校側の慎重すぎる対応に保護者から一部苦情を含んだお手紙がありました。宿泊行事や体育祭等の行事前になると、学校は対応について共通理解できるよう保護者に連絡・確認し対応を検討していきますが、それが過度になり、負担に感じたのかもしれません。
 私も、エピペンを携帯している生徒が修学旅行に行く前に、引率者の打ち合わせにあわせて、エピペンのデモ器を教育庁の学校健康推進課に相談し借りて、もしもの時に備えました。でも先生方はあまり触りたがらなかったですね。やはり、針を刺す医療行為だからかもしれませんし、アナフィラキシー既往のある生徒もふだんの学校生活では、アレルギーを起こしたことが一度もなく活発に過ごしていましたし、アレルギーやエピペンについての受け答えもできるので、先生方の危機感もちょっと薄れてしまうのかなという気がします。

並木はい、ありがとうございました。小学校から中学・高校と、発達段階に応じてそれぞれのご体験をお聞きしたのですが、やはり発達段階に準じて対応が違うということを感じました。