第6回「アレルギー疾患の対応と学校生活管理指導表」

「学校でのアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」と学校生活管理指導表
(アレルギー疾患用)

学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン

並木今お話のあった高校のような事例でいくと、大人になっているから学校全体を挙げてこの問題に取り組むという意識が薄いということもあるようです。そんな中で本会から「学校でのアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」を発行したということは、国にとっては大変画期的な流れではないかと思います。このガイドラインの3ページに、アレルギーの出現率(有病率)があります。気管支喘息が5.7%、アトピー性皮膚炎が5.5%、アレルギー性鼻炎が9.2%、アレルギー性結膜炎が3.5%、食物アレルギーが2.6%、アナフィラキシーが0.14%です。この数字を見ると、いつ学校で発作が起きてもおかしくないという状況です。どの学校にも起こり得ることで、どの学校でも対応しなければいけないということです。国としてはこういうアレルギー疾患に対するガイドラインを明示して、学校としての対応を望んでいるのだろうと思います。日本のアレルギー疾患に対応する専門家の皆様を集めて本会で委員会が開かれ、平成20年にこのガイドラインが出ました。当時のアレルギーに対する政策を急展開させた非常に大切な冊子だと思っております。
 では、学校の生活管理指導表の活用について、各先生からご経験をお話いただきたいと思います。

児童生徒全体のアレルギー疾患有病率

井上「学校でのアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」を基に千葉市ではさらに詳しい手引書を作成し、2月の末から千葉市のホームページでご覧いただけます。千葉市ではエピペンの救急搬送について、消防署に登録をして救急車を要請した時にエピペンをもっているということを伝えると常駐されている医師に指示をいただけるというシステムができていますので、もしもの時は安心です。また、新入生については就学時健康診断や入学説明会の時にアレルギーのある子に「アレルギーの管理指導表」、「主治医・保護者への活用のしおり」、「食物アレルギーに関する調査票」を配っています。
 管理指導表を配る前に調査票を配るのは、「食物アレルギーではないが、嫌いで食べない」、「アレルギー症状が出たので卵を食べないようになった」などという子どもがいますので、本当に食物アレルギーなのか確認するためでもあります。調査票の結果から食物アレルギーであるまたは疑いがあるとなると管理指導表を提出していただき、保護者面談という流れになります。在校生については、毎年4月に保健調査票を配り、それに基づいて管理指導表を出してもらうようにしています。さらに本校では年度末に全校に「管理指導表申込書」を配って、次の年度に備えるようにしています。管理指導表提出後に「個別支援プラン」を校内委員会で検討し、保護者と連携して支援していく流れになっています。

学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)
学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)
学校生活管理指導表 活用のしおり〜主治医用〜
学校生活管理指導表 活用のしおり
〜主治医用〜
学校生活管理指導表 活用のしおり〜保護者用〜
学校生活管理指導表 活用のしおり
〜保護者用〜

並木井上先生の例からいうと、入学式などで管理指導表を配ってもう一度出してくださいと言ったくらいではなかなか提出されないという意味でしょうか。

井上入学説明会または就学児健康診断では麻疹の予防接種についてお話をし、その時一緒に食物アレルギーについてお話します。この時には非常に反応があります。本校は今ちょうど入学説明会を終えたばかりですが、5名から「管理指導表」がほしいという声がありました。直接保護者に対してお話をすると反応があります。入学する時にうまく把握できれば漏れ落ちが少なくなるのではないかと思います。しかし、書類だけを通して把握しようと思うと、保護者によって温度差があり、正確な把握はできないと考えています。また、入学の時が一番のチャンスですが、転入してくる子どもについても要注意です。そこで漏れ落ちてしまわないよう必ず確認するようにしています。

並木転入生は自分の病気について自分から言いづらいということもありますし、負担をかけるかな、という気持ちになりがちですからね。

井上本人が学級に慣れない状態だと、具合が悪くなっても担任の先生や友だちに訴えられないということもありますから、やはり転入生は要注意です。

並木就学児健診もチャンスだと思いますが、中学校はいかがですか。

菅沼保護者、学校、主治医の三者が正しい知識を持って対応してほしいと思います。例えば、保健調査票にアレルギーについて記載がある生徒の面談で小学校では医師に受診をしていなかったことや赤ちゃんの時から同じ対応をしてきたことがわかりました。小学校の対応と中学校の対応を同じにすることで子どもが学校で安心して安全な生活が送れると思いました。そこで地域学校保健委員会で23年度からアレルギーの対応について委員会を設け、アレルギー対応マニュアルを作成しています。23年度は「アレルギー対応マニュアル(案)」を原案として提案させていただきました。24年度は2月に地域学校保健委員会があります。その時には医師や教育委員会から指導助言していただいたことを踏まえて作成した「アレルギー対応マニュアル(案)」を提案させていただきます。

並木この件に関して、小・中学校との連携・申し送りが弱いということですか。

菅沼申し送りではないです。小学校の対応と中学校の対応が違うということです。小学校は保護者の申し出や保健調査票への記載で対応しています。中学校では、面談で確認したところ、「赤ちゃんの時にそうだったので」という生徒でした。小学校では医師に診断していただき学校生活に活用することがなかったということです。それが課題となり、地域学校保健委員会でカバーしようということになりました。

並木なるほど、地域の学校保健委員会で中学校一校と小学校三校か四校集まって、そこで共通の話題としたということですね。

菅沼地域学校保健委員会は教育委員会、学校医、学校歯科医、学校薬剤師、学校長、保健主事、養護教諭、学校栄養職員で構成しています。

並木そこで一歩前に進むという話になったということですか。よかったですね。

並木高校での学校生活管理指導表の説明、資料の配布、申し出の要請などは説明会で行っているのでしょうか。

沢田入学者説明会の時に、保健調査票に記入をしてほしいということ、心臓・腎臓・糖尿病と同じようにアレルギーにも管理指導表があるということをアナウンスします。保健調査票は学校独自で作成するので、養護教諭が使いやすいものを作っています。私はアレルギーについてははじめから「ある、ない」、「何があるか」、「定期通院があるか」、「主治医やかかりつけ医」などを保護者に書いてもらっているのですけれども、それを入学時に全部チェックして、生徒を呼んで確認し、管理指導表を渡す、というような感じです。それでも全員出てくるわけではないです。宿泊や持久走大会などの行事のたびに行う健康調査で、ぜん息やアレルギーがあると初めて申し出ることもありますが、そういう生徒は普段は症状があまり出ないんだなと思いながら確認していきます。入学時には申告しないケースもあると思います。

並木高校生になって申告しない理由は、だいぶ体調が改善されたからなのか、病識が理解できているからなのかわからないですね。ほかの人に自分の病気を意識されるのがいやだという気持ちもあると思いますが、そういう気持ちが一番強いのはどの辺りだと思いますか。

沢田アレルギー疾患という理由で周囲との関係を気にする生徒はあまりいないと思います。どちらかというと部活や塾などで忙しくて、病院へ行くのが面倒なのではないかと思います。保護者とお話ししても、時間の都合で本人が行きたがらないと聞きます。心臓や腎臓・糖尿病の生徒も同じようです。保護者も夏休みなどの長期休暇に通院を設定し、なるべく学校を欠席せずに受診したいようです。症状の重い生徒は大学病院等に通院しているようで、一日がかりになってしまいますし。たぶん小・中学校時の経験から、生徒や保護者はよくなったと感じ申告しないのかもしれません。

並木自己コントロールができるようになってきたということなのですかね。

沢田そうですね。ただ、喘息や動物アレルギーがある生徒は食物アレルギーの生徒に比べて意識が低いですね。症状が出た時に使用する薬を常備していなかったり、顔がパンパンに腫れても放っておけば治るといったり、あまり気にしていないと感じます。たぶん何度も発作を起こしていて、結果的に大丈夫だったという経験を積み重ねてしまっているのでしょう。食物アレルギーの生徒はきちんと自己管理できている気がします。

並木行事があるとどっと出てくるというのはどういうことなのでしょうか。埃か何かへの不安ということなのですか。

沢田そうですね。たぶん保護者も生徒も行事前は意識が向くのだと思います。入学時はたくさんの書類のうちの一つですが、修学旅行や合宿など、本人の意欲が高まると意識するのでしょうね。過去の行事でアレルギーが出たことがあると、保護者は、今度は絶対出ないようにと思うのではないでしょうか。

並木まあそういう意識もあるのでしょうけど、日常から離れるという不安があって、わかってほしいと思っているのでしょうか。

沢田日常から離れて心配だという保護者や本人は、日頃からきちんと管理しているような気がしますね。

並木はい、わかりました。どうもありがとうございます。