精神保健・精神疾患を学ぶ ―改めて知っておきたい基本知識―
 

6.まずは学校への精神疾患教育導入から

5章の最後に述べた問題には様々な理由があるが、その大きな理由は、児童生徒は勿論、保護者も学校教員も精神疾患についての知識が乏しすぎることにあるように思われる。わが国の学校における保健教育のカリキュラムでは、1980年代から精神疾患についての記述が一切なくなった。従って、今教育を受けている子どもたちも、子どもを教えている教員も保護者も、精神疾患についての系統的な教育を受けたことがない。勿論、現在のネット社会では、精神疾患についての情報も氾濫しているが、正しい情報、本稿で記したような必須の基本情報をそこから得られるとは限らない。一方わが国以外の先進国では、多くの国で精神疾患に関する教育が行われるようになってきており、教科書にも詳細な記述が行われている。たとえば図4は英国の保健教育Personal, Social, Health, and Economic Education (PSHE)で使われる教科書の例(Collins社の教科書から引用)であるが、中学の初級学年の教科書には、この図の右側に示したような詳細な内容が6ページにわたって記載されている。他の国でも様々な教育プログラムが開発され、オーストラリアのMindMattersやカナダのTeen Mental Health(teenmentalhealth.org)のように国や州全体の規模で広がりつつある。

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